+五周年記念・アンケート企画「星は謳う」+


EX2.ファントムペイン編













「アウル、スティング、こっち」
「ステラあんま走るな、はぐれるぞ」
「ガキかよ、あいつ」
「お前に言われちゃおしまいだな」
「おい、どういう意味だよ」
「別に」

ステーションに降り立ち、ステラは楽しげな様子で駆け出す。
物珍しいのだろう、きょろきょろと辺りを見回してはひとにぶつかりそうになっている。
あいついくつだよ…と溜め息を吐いてアウルが救助に向かった。
なんだかんだとステラに甘いアウルに肩をすくめて、スティングも足を動かす。

「検問があるのか。厳戒態勢だな」
「式典ぶち壊そうとしてる連中がいるかもしんねーんだろ?」
「あぁ、昔の俺らみたいにな」
「…壊す?」
「大丈夫だ、ザフトの連中が厳しく警戒してるみたいだしな。何も起こらねぇよ」

不安げに見上げてきたステラの髪を撫でてやれば、彼女は安心したようにふわりと微笑んだ。
とりあえず自分たちもゲートを通るか、と移動するとステラがあ!と目を輝かせる。
いったい何だと彼女の視線の先を追えば、ザフトの赤服にコートを羽織った青年が見えた。
その瞬間にアウルが、げっと声を漏らしてスティングもやや仏頂面になってしまう。
しかしステラはそんな二人に気づかない様子で、またも駆け出してしまった。

「シン!」
「え?………あ、ステラ!」

両手を伸ばして駆け寄ってくるステラに気づいて、シンの表情が和らぐ。
そうしてそのまま、飛び込んできた柔らかな身体を抱きとめた。

傍から見れば恋人の再会、といった光景である。迷惑な。

「来てくれたんだ」
「うん、シンが呼んでくれたから、来た」
「嬉しいよ。今日は式典にあわせて街も賑やかだから、回るときっと楽しい」
「シンは?」
「え?」
「シンは、一緒に、回らない?」
「あー……俺はここで警備の仕事があるから。いまは休憩中」

だからコートを羽織っているのか、と納得してようやくスティングとアウルも辿り着く。
走るなって言ってるだろ、とたしなめてもステラは嬉しそうに笑うだけだ。
シンはどこかぎこちなく…どうもと頭を下げ、アウルはふんとそっぽを向く。
どうにも微妙な空気が流れてしまうのは仕方ないとして、これからどうしたものか。

「おいお前、休憩中ってことはいまは動けるんだろ?」
「え、まあ…あと三十分ぐらいなら」
「近場で良い景色が見られるとこってないのか」
「景色…?」
「ステラはお前に会うの楽しみにしてたんだ、少しぐらい付き合ってやれ」

スティングの素っ気ない言葉に驚き、シンはいまだ抱きついたままのステラを見下ろす。
きょとんと見上げてくる彼女は、シンと目が合ったと分かると、嬉しそうに笑みを綻ばせた。

「……ホントに近場だけど、こっち」
「シン?」
「星が、よく見える展望台があるんだここ」
「星?綺麗?」
「綺麗だよ。きっとステラも気に入る」
「うん!」

二人手を繋いで歩き出してしまう。
どこか面白くない、と感じながらスティングとアウルも続いた。
検閲は問題なく通過することができ、シンの案内でその展望台へと向かう。

宇宙からの来客を迎えるステーションは、直接真空の世界を眺めることができる場所があった。
夜空というには星が多すぎる景色。光の洪水のような光景に、思わず息を呑んだ。

壁一面が窓になっており、まるで宇宙に投げ出されたかのような錯覚を覚える。

「きれい…」
「だろ?これを見てると、時間を忘れる」
「確かに…壮観だな」
「すげ…」

広大な宇宙を身体で感じることができる。モビルスーツで宇宙を駆るのとは違う感覚だ。
こうして眺めていると、自分たちの存在のいかに小さいかを思い知らされる。
無数にある星の中、ひとつの場所で争うことを続けている自分たち。
これほどに美しい景色の中で、あんな醜い光景を繰り広げているのは滑稽でしかない。

ガラスにそっと手をあて、魅入られるようにステラが景色を見つめる。
その隣りに並んで、シンはルビーの瞳を細めた。

「…いつか、俺たちも」
「?」
「俺たちの星も、あの綺麗な光の中のひとつに、なれたらって思う」
「あの星と、いっしょに?」
「うん。俺たちの星の光も、こんなに綺麗なんだぞって。胸張って言えるように」
「………うん。ステラも」
「ステラも見たい?」
「うん!」

無邪気に頷くステラに、じゃあ頑張らないとなとシンは穏やかに微笑む。
すると、何言ってんだとスティングとアウルが割って入った。

「あっちから見たら、俺たちの星だって光ってんに決まってんだろ」
「そーそー、充分いまでもびかびかだっての」
「びかびか…?」
「昔よりは、マシになっただろ。ここも」

ぶっきら棒な二人の言葉に、シンが目を瞬く。
お前のために言ったんじゃねーよ、とアウルが睨みつけてくるけれど。
彼らの言葉が嬉しくて、そのむずがゆさにシンは眉を歪めて、そして笑ってしまった。
何笑ってんだてめえ、と不機嫌な顔をさせてしまうけれど。

そうだ、いまだって充分に自分たちが生きる場所は美しく光放っている。
けれどこれが終着点ではない。まだまだ、輝けるはずだ。

もっと温かく、優しい光を放って。

「シン、ステラ、応援してるから」
「………ありがとう」

この星が美しく謳うことができる日まで。

















5year Thank you.