++過去拍手5++
◆冬・ミネルバ◆ 「ううっ、寒い!」 「……ルナってさ、意外と寒さに弱いよな」 「なんで平気そうなのよシン!」 「いや、なんでって言われても…」 ベッドの上で毛布を身体に巻いてがたがた震えている恋人。 暖房をもうちょっと上げるべきだろうか、とシンは立ち上がる。 すると、いきなりぐっと腕をつかまれ引っ張られた。 不意打ちに身体はバランスを崩し、倒れこむ。 ぼふり、とシーツの感覚がすればそのまま毛布の中へ。 「あったかーい」 「な、ちょ、ルナ!?」 「暴れないでよ、風がおこって寒いでしょ」 「そういう問題じゃないだろ!?」 なぜベッドの上で同じ毛布にくるまれなければいけないのか。 目を白黒させている少年に構うことなく、ルナマリアはご満悦だ。 やっぱり人肌よねーと頬を摺り寄せてきて焦る。 「や、やめろって」 「シンって猫みたい」 「…はあ?」 「なんでもありませーん」 「なんだよそれ」 「あ、そうだ。後でメイリンたちが出かけようって」 「は?」 女の子というのは話題がころころ変わる。 その転回についていけず、シンは紅の瞳を訝しげに細めた。 「冬物を買いに行くのよ」 「………マフラーとか?」 「それもあるけど、普通に服とかも」 「俺、残る」 「却下」 「〜〜〜〜」 「それに、シンに服見立ててほしいなーって。ダメ?」 同じ毛布にくるまっているせいで、互いの距離が近い。 息がかかりそうなくらい近くで、ルナマリアが首を傾げる。 その仕草に息を詰めたシンは、ふいっと顔を逸らした。 「シーンー?」 「……分かった、行けばいいんだろ行けば!」 「やった!あ、シンの冬物は私が見立ててあげるからね」 「…はいはい」 「あと、マフラーと手袋はお揃いとかどう?」 「は」 「もしくは色違いとか」 「絶対やだからな!」 真っ赤な顔で否定する恋人に、ルナマリアはくすくす笑う。 寒くなった季節の中でも、ただこうしているだけで暖かい。 シンもそう思っているのか、怒った表情をつくってはいても。 毛布の中で繋がれた手がほどけることはなかった。 ◆冬・ジュール隊◆ プラントが冬に調整され、街中を歩くと息が白くなった。 久しぶりに休暇を得ることができたイザークは、颯爽と足を進める。 銀色の髪がさらりと流れ、冬になって色が沈んだ街によく映えた。 「…この時期は、忙しなくて好かん」 「そう言うなって。イベントの多い時期なんだからさ」 「ふん」 なぜか休日だというのに駆り出されたディアッカが、疲れた声で言う。 気持ちとしては、家でごろごろしてたかった、というところだろう。 なぜ休暇にまでイザークと顔を合わせなければならないのか。 「この忙しい時期に休暇がもらえるとは思わなかったなぁ」 「…それだけ、情勢も落ち着いたということかもしれんが」 「良い傾向だよな。はあ、わかってたら色々準備したのによ」 「準備?」 「こっちの話。デートしようにも、いきなり誘ったら迷惑だろ」 「…お前はいつだって煙たがられてるだろうが」 「ぐさっ!」 胸を抱えて呻く戦友兼部下を放置し、イザークは通りへと目を向ける。 アイスブルーの澄んだ瞳が見つめる先を、やや弾んだ足取りで進んでいく人々。 そのどれにも笑顔が浮かんでいて、楽しげで。 そういえばこの時期は皆こんな顔をしていたな、と思う。 以前には確かにあった日常が、取り戻されてきている。 そのことが素直に嬉しいと思えた。 「んで?俺はなんで呼び出されたわけ」 「荷物持ちに決まっているだろう」 「は!?俺、お前の彼氏でもなんでもねーんだけど」 「当たり前だろう、気色の悪いことを言うな」 「………」 「隊の者たちに、何かやろうと思っただけだ」 「へ」 「日ごろの労いも含めてな」 すたすたと歩き出す隊長を、ディアッカが呆然と見守る。 まさか、イザークがそんなことを言うようになるとは思わなかった。 いや、彼はもともと義理人情に厚い性格ではあるが。 「………明日は嵐か」 「おい」 「いやいや、なんでも……って、ん?」 「………雪?」 「あれ、今日そんな予報出てたっけ」 「いや…」 天気も人工のシステムで管理されているプラント。 天気予報は地球と違い100%の確率で当たるというのに。 「…ひょっとして、ささやかなサプライズ?」 「…ふっ……粋なことをしてくれる」 「案外、ラクス・クラインの発案かもしれないぜ?」 「…ありえるところがなんともいえんな」 降り積もるほどのものではなく、はらはらと粉雪が舞うだけ。 それでも、街行く人々は嬉しそうに声を上げて空を見つめる。 その光景を、イザークとディアッカは黙って眺めていた。 「…なあ、イザーク」 「何だ」 「荷物持ちならさ、シホでも誘ってやれよ」 「………?」 「ぜってー喜ぶから」 ◆冬・オーブ◆ 「アスラン、いるか!」 「………俺は逃げも隠れもしないから、落ち着け」 いきなり物凄い音を立てて入室してきた少女。 呆れたような顔で振り返ったアスランは、溜息を吐き出した。 「…いつか俺の部屋のドアはカガリに破壊される気がする」 「む。そこまで力はこめてないぞ」 「そうか?いま、みしっていってた気がするが」 「気のせいだ!」 眉を寄せつつ部屋にずんずん入ってくるカガリ。 オーブの代表として忙しい毎日を送っているのに、元気そうだ。 以前ほどは一緒にいられる時間はなくなってしまったけれど。 それでも、前よりもずっと感じられる互いの絆の強さ。 目指す道が同じなら、いつかまた共に過ごせる日が来ると。 そう信じられるようになった。 「今日はどうしたんだ?この時期はいつも以上に忙しいだろう」 「まあな。無理やり、今日だけ半日休暇をもらった」 「無理やり…?」 「そこに食いつくな!せっかくの休みだ、楽しむぞ」 「…いや、俺はまだやることが」 「代表権限だ、後にするように」 「権力を乱用するなよ、まったく」 そう言いながらも、開いていたパソコンを閉じる。 なんだかんだで自分に付き合ってくれるつもりらしい。 カガリは嬉しそうに目元を綻ばせ、出かけるぞと歩き出した。 「?どこに行くんだ」 「マルキオ様の伝道所」 「は」 「そこで、鍋をやるんだ」 「…鍋って、昔東洋の島国であった…」 「そうそう。うまいし、賑やかだし、あったまるしで最高だ」 「そうなのか」 「冬にはぴったりだぞ。ちょっとした戦いだけどな」 きらきらと輝く笑顔を見せる少女に、アスランも小さく微笑む。 やはりカガリはこうして表情をくるくる変えてくれる方がいい。 為政者としては困ってしまう特質ではあるとしても。 少女の素直さに自分も仲間たちも救われ、背中を押されてきた。 そしていまも、温かい心と力をもらっている。 「肉は私がいただく!」 「…おい、子供たちの分まで奪うなよ」 「言っただろ、鍋は戦いなんだ」 「………大人げなさすぎるのもどうなんだ」 自分は野菜ばかり食べる羽目になるのでは。 そんな不安が頭をもたげたりしながら。 ◆冬・プラント◆ 「ラクス、マリューさんたちから手紙が来てるよ」 「まあ」 珍しく休日を過ごすことができていたラクス。 リビングへとキラが手紙を持って現われ、笑顔を見せる。 「マリューさんたちはお元気ですか?」 「うん、ムウさんと仲良くやってるみたい」 「それはよかったですわ」 「それで、何か必要なものはないかって書いてるよ」 「必要なもの?」 大抵はプラントで揃ってしまうから、気持ちだけで十分だ。 あまり物欲のないラクスもキラも、必要なものと言われても浮かばない。 うーん、と悩んでいると少女が楽しげにぽんと手を叩いた。 「そうですわ」 「?」 「私、以前から欲しいものがありましたの」 「え、ラクスが?珍しいね」 「はい。こたつ、というものなんですが」 「こたつ……あぁ、テーブルに布団をかけたみたいな」 「はい!とっても温かいのですって」 いつか試してみたかったと語る少女の顔は生き生きしている。 確かこたつは、オーブにもあったとは思う。 島国の文化だったらしいが、その住民がオーブへと流れ込んだからだ。 温泉や、アークエンジェルにあったノレンというものもその文化らしい。 さらに、戦時中にラクスが来ていた服も、その文化のモチーフだとか。 ひょっとして彼女はあの文化が好きなのだろうか。 「プラントにもありそうだけどね、こたつ」 「せっかくですもの、オーブからいただきましょう?」 「うん。何かお願いしないと、ムウさんなんかは収まらなそうだもんね」 「ふふ」 「どんなのか楽しみだな」 「足元がとっても暖かいのだそうです」 「あ、ならラクスにはいいね。足先とか冷たいんでしょ?」 「はい」 だいぶ寒くなってきて、ラクスの細い指は冷え切っていることが多い。 手を繋いで、キラがびっくりすることもよくあるぐらいだ。 今日もそっと握った少女の手は、やはりひんやりと冷たい。 「でも、ちょっと残念」 「え?」 「ラクスを温まるのは、僕の役目なのになーって」 「まあ、キラったら」 おでこをこつんとぶつけ、くすくすと笑いを漏らす。 こたつが来るのが楽しみだ、と囁き合いながら。 ◆冬・ファントムペイン◆ 「おーい、ステラー。そろそろ戻ろうぜー」 「………もう、少し」 ずっと降り積もった雪を眺めている少女に、アウルが溜息を吐いた。 さっきからこの調子だ。もうどれだけ時間が過ぎただろう。 雪なんて数分も見れば飽きるというのに、ステラは違うらしい。 はらはらと舞い落ちる雪と、真っ白に降り積もった雪を眺めて。 何がそんなに面白いんだろうかと、少年は白い息を吐き出す。 「アウル、そろそろ戻るぞ」 「俺はいいけどさぁ、ステラのやつが…」 「…何やってんだあいつ」 「知らね。ずっとあの調子で雪眺めてる」 「……はあ、海だけじゃなくて雪もか」 呆れたような二人の声が聞こえてくる。 アウルとスティングが自分を呼んでいる、でも、あと少し。 ただひたすらに降る雪は、とっても綺麗。 そして真っ白に染まった世界も、怖いくらいに綺麗。 白以外にない世界は、何者にも侵しがたく。 けれど、ここに別の色を落としたのなら、あっという間に染まる。 そんなアンバランスさを秘めた世界。 ステラの瞳はただただそれらを見つめる。 まるで自分みたいだ、とどこかで思っているのかもしれない。 真っ白で、何もない自分。それを染めるのは誰だろう。 アウル?スティング?ネオ? それとも。 「おーい、ステラー。帰ろうぜ」 「いいかげん風邪引くだろ。ネオに心配かけんなよ」 「…うん」 「帰ったら、あったかいもん食いてえ〜」 「俺に言うな、スタッフに言え」 「ステラ、スープが飲みたい」 「お、いいな」 「…アウルと、スティングと、ネオで」 「ネオもかよ」 「やれやれ…」 自分を待っていてくれる、アウルとスティング。 帰れば自分たちを迎えてくれるネオ。 それだけで十分幸せなのに。 真っ白な世界は。 まだ何ものにも染まってはいなかった。 thank you... |