++過去拍手6++




◆デート・ディアミリ◆





「はい、次これ」
「………」
「あとこっち持って」
「………なぁ」
「何よ」

忙しく無数のフィルムを手にとる少女に、ディアッカは溜め息を吐く。
声をかけておいて溜め息なんぞを聞かせる男に、ミリアリアが顔を上げた。
もちろん、微妙に眉を寄せた表情で。

その顔ですら可愛い、と思えてしまう自分は恐らく末期だ。

「俺、いつから助手になったんでしたっけ…?」
「あんたみたいなのを助手にするわけないじゃない。この私が」
「へーへー、相変わらずの物言いですこと」
「だいたい、この忙しいときに来るのが悪いの。なんで締め切り前に来るわけ!?」
「仕方ないだろ。俺だって早々休暇が取れるわけでもないんだからさぁ」

軍人としていまだ生きるディアッカは、休暇はあってないようなもの。
今回ミリアリアのもとへ来られたのだって、本当に久しぶりに長期休暇を得たからだ。
イザークはいまだに仕事をしているのだろうから申し訳ない。

申し訳ないのだが、やはり嬉しいとも感じてしまう。
そんな浮かれた気持ちのまま、いそいそとミリアリアのもとへ来たはいいものの。

「はい、こっちいらない写真。そこに入れといて」
「はいはい」
「ついでにそこのフィルム持ってきてー」
「………はあ」

遠慮なくこきつかってくれる少女は写真に夢中だ。
カメラマンとして生きる、と聞いたときは本当に驚いたものだが。
こうしてフィルムと睨めっこをしながら作業する姿はなるほど似合っている。

「もう少し、俺の方見てくれたら最高」
「…何か言った?」
「いーえ、なんでも。お、その写真綺麗じゃん」
「分かる?これ自信作なの。すっごい綺麗でしょ」
「前にメールくれたとこの?」
「そう!この写真撮るの大変だったのよ。この色が出るまで何時間も粘って」

きらきらと瞳を輝かせて語るミリアリアは本当に楽しそうで。
この姿を見てしまえば、なんでもいいかという気持ちになってしまうのだから。

本当に自分はどうしようもない、と落ちてきた前髪をかきあげる。

やはり惚れてしまった者が負けということなのだろう。
こうして傍にいて、彼女の輝く笑顔を見て。ほんの少し、言葉をかわせるだけで幸せ。
…欲を言うのなら、もうちょっと自分をかまってもほしいが。

「なぁ、ミリィ」
「………何よ」
「今度、そこに俺も連れてってくれよ。お互いに休みのときにさ」
「…いつになるか分からないじゃない、それ」
「それこそ分からないぜ?意外に早いかもしれないだろ」
「………まあ、考えておいてあげるわ」
「マジで?」
「ディアッカが全部お金出してくれるんなら」
「………………。……ならホテルは二人一部屋にしてやる」
「んなことしたら殴るわよ」
「俺の金なんだからいいでしょーが」
「よくない!」

ぷいっと横を向いて不機嫌さを見せるミリアリア。
けれど彼女の頬がわずかに赤く染まっているのが分かったから。

小さく笑みをこぼして、ディアッカは再び写真に目を落とした。















◆デート・キララク◆




「こんなにのんびりするの、久しぶりだね」
「はい」

うららかな午後、木陰の下で少年と少女は過ごしていた。
お互いにいまでは忙しい身となってしまい、こうした時間はなかなか得られない。
だからこそ、二人は本当に幸せそうに穏やかな時間を満喫していた。

「キラ、お辛くはありませんか?」
「ううん、平気。ラクスこそ痛くない?」
「はい。高さも丁度良いですわ」
「そっか。膝を貸す側になるのも楽しいね」
「ふふ、でしょう?私もいつもキラに膝枕をするの、楽しみにしておりますのよ」

くすくすと軽やかな声が風に流れていく。
その心地よさに紫苑の瞳を細め、キラは自分の膝に乗るラクスの頭を撫でた。
桜色の柔らかな髪が指の間を流れ落ち、温かい温もりを感じて。
胸にゆっくりと穏やかで優しい気持ちが広がっていくのが分かった。

「ラクスの髪って、すごい触り心地良いよね」
「そうですか?」
「うん。ふわふわしてて、でもさらさらと流れて」
「私はキラの髪も好きですわ」
「僕の?」
「はい。指の中で思わぬ反応をする髪が、とても楽しくて」
「あぁ…けっこう跳ねるからね」

一度寝癖がつくとけっこう大変なのだ、この髪は。
逆にラクスは撫で付ければたいていの癖は直ってしまうのだとか。
なんてうらやましい。

「キラ、そろそろお昼に致しませんか」
「あ、うん。お弁当用意してくれたんだっけ」
「はい。久しぶりにゆっくり台所に立てて、楽しかったですわ」
「僕も、起きたらラクスの料理してる音が聞こえてきて、嬉しかったな」

リビングに顔を出すと、リズミカルな包丁の音や、鍋の音が聞こえてきて。
あぁ朝なんだな、と穏やかに感じられる目覚めだった。

「早く、毎日がそんな風になるといいよね」
「そうですわね」
「そのために、僕も頑張らないと」
「まあ。キラは充分に動かれているではありませんか」
「ラクスほどじゃないよ。あんまり無理しないでね」
「はい。キラがいてくだされば、大丈夫ですわ」

身体を起こした少女がふわりと微笑む。
その気持ちは本当に嬉しいが、自分はそこまで応えられていない気がする。

いつだって人々のために前へ進みつづけるラクス。
彼女の支えに、本当に自分はなれているのだろうかと、不安になる。
けれど、ラクスは充分だと優しく微笑んでいてくれるから。

「僕も、ラクスがいるから大丈夫だよ」
「キラ」
「一緒に、頑張ろう」
「はい」

そしていつか、こんな風に穏やかな日々が常に巡るように。

大切なひとたちと、笑い合える毎日を。
















◆デート・シンルナ◆




「シン、次あれ!」
「………まだ見るのかよ〜」
「まだ二軒しか回ってないじゃない。次はあの店!」
「はあ…俺もう疲れたんだけど…」

シンのぐったりとした抗議が聞き入れられることはなく。
ずるずると腕を引かれ、今度はアクセサリーショップへと押し込まれる。
本当に、どうして女の子は買い物がこんなに好きなのだろう。
妹と一緒に出かけたときも、自分だけが疲れて帰ってきた記憶がある。

「ねえ、シン。どれがいい?」
「なんでもいいだろ」
「…怒るわよ」

低く唸るような声を発する恋人に、わずかに顔が引き攣った。
じろり、と見上げてくる瞳を受けて、シンの紅の瞳がさまよう。

「…俺が選んでも、結局違うもの買うじゃないか」
「シンの意見も聞きたいの!それで自分が欲しいものと迷いたいの」
「はあ?」
「それに、私が良いなと思ったものとシンが同じもの選んでくれたら嬉しいし」
「……ハードル上げるなよ…」

自分とルナマリアの趣味が同じだったことが、果たしてあっただろうか。
期待に満ちた表情で見つめられれば余計にプレッシャーを感じてしまう。
面倒臭い、と自身の黒髪をかいた少年は、とりあえず色々な商品に目を向けてみた。

可愛い小物やアクセサリーの並ぶ店は、本当に居心地が悪い。
どれを見ても似たようなものに見えてしまい、違いがよく分からないし。

「…ルナって何色が好きだったっけ」
「私?うーん……最近は、赤?」
「…赤?」
「誰かさんの眼の色」
「え」
「あと、ザフトレッドの色だし?」

悪戯っぽく笑って誤魔化すものの、彼女が赤を好きだという理由は前者の方が強いのだろう。
なんだかどぎまぎしてしまって、そ、そう…とシンはどもってしまった。
不意打ちでこういうことを言ってくるから、女の子というのは心臓に悪い。

「…なら、これとか」
「あ、綺麗なネックレス」
「本当はこっちもいいかと思ったんだけど」
「イヤリング?」
「けど、ルナあんまり飾り好きじゃないだろ。ネックレスの方が邪魔にならないかなって」

何気なく落としたシンの言葉に、ルナマリアは驚いたように目を瞬いていた。
言ったことはないはずなのに、なぜ気付かれていたのだろう。
妹と違ってあまりお洒落に手を出さない。興味がないわけではないのだが。
軍人として生きている以上、不必要なものは排除してしまう癖があって。

気付いててくれたんだ、と嬉しそうにはにかむ少女にシンは不思議そうだ。
彼はただ思ったままを言って、これを選んでくれたのだろう。

それが余計に、嬉しい。

「うん、じゃあこれにしようかな」
「え、いいのか?」
「シンが選んでくれたんだし、赤だし。文句なし」
「………ルナが素直だと怖い…」
「何か言った!?」
「な、なんでも。……ならそれ、俺が買うよ」
「え」
「この間、ルナに服見立ててもらっただろ。そのお礼」

視線を合わせないまま、ネックレスを手に少年は会計へと行ってしまった。
置いていかれたルナマリアは、まさかの展開にぽかんとしてしまう。

まさか、シンが自分のためにあれを買ってくれるとは。

あの素直じゃないところこそ、シンよね。
そう小さく笑みを浮かべて。
















◆デート・イザシホ◆





「た、隊長」
「なんだシホ」
「本当に私でよろしいのですか?隊長ならもっと…」
「なんだ、俺では不満か」
「そんなわけありません!」

思わず大きな声を出してしまったシホは、慌てて周りを見回す。
だが華やかなこの場では、皆が楽しそうに過ごしており、注意は引かなかったらしい。
生演奏のオーケストラのおかげもあるかもしれない。

ほっと息を吐く少女の前で、彼女の上司である青年はこともなげに言い放った。

「なら問題はないだろう。ほら」
「え」
「…パーティ会場で男がエスコートするのは当然だ。さっさと手をとれ」
「は、はい!」

ただでさえ、目の前のイザークは憧れのひと。
そして先ほど彼が言った通り、ここはパーティ会場で。イザークはタキシードだ。
自分もドレスに身を包んではいるが、どうにも落ち着かない。
軍服姿で互いに顔を合わせるのが自然だったから、こうした姿で会うのは…。
しかも、イザークの手をとって、エスコートまでしてもらって。

「…すまない」
「え?」
「俺もこういう面倒な場は好きではないんだが。今回は断りきれなくてな」
「それは…仕方ありません。ジュール隊の功績を認められ、招待されたと聞いております」
「あぁ。俺は別にこんな場に招かれても嬉しくもなんともない」
「ふふ、隊長らしいですね」
「こういう場には女性と共に、というのが常識だからな。お前には迷惑をかける」
「と、とんでもない。光栄です」
「…そうか?」
「はい。隊長と副長が行かれるものとばかり」
「…ディアッカを同伴してどうする」

物凄い嫌なものを見るような目を向けられてしまった。

「お前なら、この場に連れてきても疲れないで済みそうだと思ったんだ」
「え」
「…それに、ジュール隊の功績にはお前も随分と関わっているからな」
「あ…ありがとうございます!」

嬉しそうに顔を綻ばせる少女に、イザークはアイスブルーの瞳を見開く。
だがすぐにそれをおさめると、小さく笑みを浮かべた。

ドレスを褒められるのでもなく、隊員として認められる方が嬉しいのかと。

「…変わっているな、お前は」
「そ、そうでしょうか」
「あぁ。ジュール隊には必要な存在だ」
「…!」

瞬間的に顔を赤くする少女の反応が本当におかしい。
珍しく楽しい気分になって、イザークはくっくっくと笑いを噛み殺した。
それに不満そうに見上げてくるシホの手をとり、ホールへと向かう。

「一曲、付き合え」
「ええ!?」
「隊長命令だ」
「そ、そんな〜!」

面倒だと思っていたパーティも、楽しめそうだ。












◆デート・アスカガ◆




「だ〜〜〜!!また負けた〜!!」
「………ここまでついてこれるお前もすごいと思うが」
「納得いかない!勝つまでやる!」
「…おいおい」

悔しげに拳を握る少女に、アスランは呆れたような目を向けた。
カガリの怒りに呼応するかのように、彼女を乗せた馬が小さく嘶く。

「だいたい、代表が早駆けをすること自体、俺は反対なんだ」
「いいだろ、たまの休暇ぐらい」
「危険だと分かってるのか?もしカガリの身に何かあったら…」
「はいはい、それは耳にタコが出来るぐらい聞かされた!」

先ほどの怒りとは別の意味で不機嫌になる少女に、やれやれと溜め息を落とす。
オーブの代表として、カガリは本当によく頑張っている。
本日の休暇だってとても久しぶりに得られたのだ。

たまの休みぐらい、家でのんびり過ごせばいいのに、とアスランは思うのだが。
カガリとしては思い切り身体を動かせる方がリフレッシュになるらしい。

「今日は休暇、すなわち代表としても休み!だから好きなように危険に飛び込む!」
「なんだその屁理屈は!」
「窮屈な毎日を耐えてるんだ。今日ぐらい好きにさせろよな」
「…割といつも好きにしている気がするんだが」
「代表を心配する気持ちは理解してるつもりだ。けど…」
「ちょっと待て」

カガリの言葉に、声のトーンを下げたアスランが馬を寄せる。
隣りに寄り添うアスランを見上げた少女は、若干拗ねたような表情で。
なんだよ、と小さく睨みつけてきた。
自分の言葉が足りないせいも大いにあるのだろうが、彼女は誤解している。
どう説明すれば分かってもらえるだろうか、と必死に頭を回転させてアスランは口を開いた。

「俺が心配してるのは、カガリだ」
「だからそれは」
「カガリ様じゃない、カガリ・ユラ・アスハを、心配してる」
「………へ」
「当然だろう?その…好きなひとに、危険なことをしてほしくないと思うのは」
「すすすすすす好きって。お前そこはさらっと言えよ、こっちが恥ずかしくなるだろ!?」
「言えるか!俺だって恥ずかしいんだ!」

お互いに真っ赤な顔で怒鳴りあう。
自分たちを乗せた馬二頭は、困った主人たちだというように首を振っている。

少し冷静さを取り戻したアスランは、こほんと咳払いして続けた。

「…だから、あまり無茶をするな。せめて俺の手の届くところにいてくれ」
「………か、考えてもいい」
「…おい」
「仕方ないだろ、気が付くと突っ走ってるんだから」
「開き直るな。そういうところ、本当にキラとそっくりだな」
「何!?あんなに世話の焼けるやつじゃないぞ私は」

…どうだか、と思ったのだがそれは口に出さずにおいた。
言ってしまえばカガリが機嫌をさらに損ねるのは目に見えている。

「よし!もう一回競争だアスラン」
「…お前、俺の話聞いてたか?」
「手の届くところならいいんだろ?平気、平気」
「あ、おい!」

先ほどよりもずっと晴れやかな顔で駆け出す少女に、慌てて手綱をとる。
あんな笑顔を見せられてしまえば、止める気など失せてしまうではないか。

まったく、本当に困ったお姫様だ。

そう困ったように笑って、アスランも馬を駆った。










thank you...