+++ 萌 芽 +++

番外編 present




いつも支えていてくれる、温かい存在に。


ありったけの感謝をこめて。























「どうしたらいいと思う」
「………………………って、いきなり聞かれても」

難しい顔で尋ねてくる幼馴染に、キラは困ったような声で返す。珍しくこの島に顔を出したかと思ったらこれだ。ただでさえ言葉の足りないアスランなのだから、これでは内容が伝わらない。

「その………カガリに」
「カガリに?」
「何か……贈りたいんだ」

相変わらずモゴモゴと聞き取りにくくはあるが、何となく分かった。
本当にこれがザフトでトップガンだった男なのだろうか、と思ってしまう。

青みがかった髪の間から覗く、鋭い目もいまは情けないことになっている。せっかくの整った顔も、これでは台無しだ。この姿をアスランに憧れているという人たちに、見せてやりたいとキラは思った。

「プレゼントか、何で?」
「いや…いつも世話になってるし、俺も何かしたい。それだけだ」

しかし何をプレゼントしたら良いのか分からないのだという。

自分にはトリィ、ラクスにはハロを作ったのだから、カガリにもマイクロユニットをあげればいいのではないか?そう思うのだが、恋人相手になのだからそれらしいものをあげたいと言われた。

「うーん…、カガリならなんでも喜ぶと思うけど」
「それじゃ参考にならない」
「そう言われても……。僕だって女の子にあげるものなんて、思いつかないよ」
「はあ……」
「大人のひとに相談とかは?」
「した」

こちらに来る前に、アスハ家の別邸に寄って来たのだという。
そこでマリューと、地球に下りてきて同じく世話になっているバルトフェルドに聞いてみたらしい。

「………二人とも、何て?」
「無難なのは花だと言われた」
「…カガリに?」
「一般的な意見だそうだ。あとは一緒に食事とか…出かけるとか」
「………カガリに?」

まあ外出は喜ぶかもしれないが。
しかし彼女の立場上、気兼ねなく外で遊ぶということは難しいかもしれない。

「ラクスに相談してみる?」
「やめてくれ」
「え、何で」
「………おもしろがりそうじゃないか」

低い声で唸る親友に、そうかな?と首を傾げる。ちょっと想像してみて、楽しそうにまあと笑うラクスの姿が浮かんできた。別におもしろがるわけではないだろうが、彼女の少し常人とかけ離れた反応は恥ずかしいかもしれない。にこにこと喜ばれた日には、彼女に他意はなくても居た堪れなくなりそうだ。

「じゃあ、どうするのさ。もう」
「………マイクロユニットを作ろうにも、そのための時間が取れないんだ」
「やっぱりそれも考えたんだね……」

自分だったらどうするだろう。
ラクスに何かを贈るとしたら、何がいい?

いつもたくさんの優しさと温もりを与えてくれる彼女に、自分は何ができるのだろうか。

「あ、そうだ」
「え?」
「アスランさ、カガリに何かもらったことってある?」
「カガリに……?」
「うん。もらって自分が嬉しかったもの」
「俺がもらって……」

視線を落として考え込んでいたアスランは、ふと思い出したように顔を上げた。
それから胸元に手を入れて赤い石を取り出す。それに見覚えのあったキラは、わずかに驚いたように目を見開いた。

「アスラン、それ…」
「あぁ、カガリがくれたんだ。お守りだって」

彼女がいつもつけていた、ハウメアの護り石。
いつの間にか見なくなったと思っていたけれど、まさかアスランの手に渡っているとは思わなかった。

とても大切な宝物を手にしているような、そんなアスランの様子にキラはふっと紫の瞳を細める。

「だったらさ、アスランも何か身につけられるものあげたら?」
「え」
「ネックレスでもいいだろうし、髪飾りとかブレスレットとか。あとイヤリングとか指輪とか?」

うわぁ、女の子って色々なものつけられるんだね。そう自分で指折り数えながらキラが言葉を漏らす。それをどこか遠い声に感じながら、アスランはぼんやりと思考を働かせる。カガリにあげるなら、彼女が喜ぶのはどんなものか。

活動的な彼女のことだから、イヤリングや髪飾りなどなくしそうなものはアウトだろう。
ネックレスは自分がもらったものだし、同じようなものを贈っていいのかどうか分からない。

となるとブレスレットか、指輪か。

「アスラン?」
「あ、あぁ。うん、いいかもしれない」
「そう?なら良かった」

ほっとしたように笑う親友に、アスランもやっと小さく笑みを零す。
こんなことで悩んで奔走するなんて、なんて滑稽なのだろう。

けれどたくさんのものを失ったあのときに、得ることができた数少ない大切なもののひとつ。

自分に光を与えてくれた彼女のために、振り回されるというのも悪くないと思う。

多くの犠牲を憂い、見えない未来に苛立っていたあの日々より。

愛しいひとのために、親友とああでもないこうでもないと、とりとめのないことを話せるいま。

それはとても幸せなこと。

「僕もラクスに何か贈ろうかなぁ」
「それこそラクスなら、何でも喜ぶんじゃないか」
「………僕はアスランを恨むよ」
「な、何でだ」
「ハロなんて精密なもの作ってくれちゃってさ。あれ以上にラクスが喜ぶものなんて、僕作れないだろうし」

確かに提出の前日まで、マイクロユニットに関しては手をつけようとしなかったキラのこと。
新しく別のものを作るなんて、無理な話なのだろう。

そんなところは変わらないキラに、アスランは苦笑する。

「けどキラ、これからはハロの面倒はお前が見ないとなんだからな」
「え?」
「ハロの調子がおかしくなる度に、俺を呼び出すつもりかお前らは」
「あ、そっか。アスラン忙しいもんね」

いま思い出した、と手を叩くキラにぐったりと肩を落とす。
こういうマイペースなところは、ラクスと良い勝負なのではないだろうか。

「メンテナンスなんて、できるかな」
「それぐらいやれ。あとお前の好きにプログラムをいじってもいいから」
「いいの?」
「もう俺のじゃないんだ。ラクスがいいなら、いいさ」
「やった、じゃあ色々と試してみよっと」

嬉々として目を輝かせる親友の姿に、若干アスランは不安を覚える。
まあ、いいだろう。自分がここに来ることは、そう多くはないのだし。

「じゃあ、キラ。時間をとらせてすまなかった」
「ううん。僕はいつでも暇だから、遠慮しないで遊びに来てよ」
「あぁ」

軽く手を振って、家を出る。

自分の髪を揺らす潮風に、アスランは翡翠色の瞳を細めた。


美しいこの世界。

いまここに立つことができているのは、カガリのおかげだ。



逃げるな、と引き止めてくれた声がいまも耳から離れない。

泣きじゃくりながら訴える姿に、どれだけ自分が救われたことか。

その涙を、とても美しいと。



不器用な自分だけれど。

きみを護りたいと思う気持は、きっと誰よりも強い。

だからきみに贈りたいものがあるんだ。

たくさんの感謝と。

言葉にできないほどの愛しさをこめて。





いつかきっと、届けに行くから。






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