+++ 萌 芽 +++



14.灯る光








少しずつ近付いている気がする。

胸の中に宿る熱が、そのときを知らせている。

もうすぐだから。

きっとまた歩き出せるから。

みんなの笑顔に、そう思えた。


























「キラ、今日はリビングに顔を出したら駄目よ」
「え、何で?」
「子供たちがね、サプライズを企画してるのよ。だから気を付けてね」
「分かった」

実際はよく理解していなかったけれど、とりあえずリビングを避けていればいいわけだ。
小さく頷くと、カリダは安心したように笑って部屋を出て行った。

さて、どうしたものか。
これといってすることのないキラは、頭を捻る。しかし良い案は浮かばず、ベッドの上にぽふりと倒れ込んでしまう。白いシーツの心地良い感触に目を閉じていると、ノックの音と共にドアが開く音が聞こえてきた。

「キラ」
「ラクス?」
「こちらでしたか」
「どうしたの?」

寝そべったままなのも失礼か、と思って体を起こす。すると部屋に入ってきて、ラクスは楽しそうな笑みを見せた。

「今日はリビングに立ち入り禁止と言われてしまいました」
「え、ラクスも?」
「はい。サプライズだから、と言っていましたけれど」
「それ僕も言われた。なんだろうね」

ラクスまでも追い出されるとは思わなかった。
子供たちでいったい何をしようというのか、お楽しみということなのだろうけど。

「じゃあそれまでどうしよっか」
「そうですわね、どうしましょう」

頬に手をあてながらも、あまり困った様子はない。
しかし二人でこの部屋にいるのも、なんだか落ち着かない。キラはそう思って、散歩へと誘った。

















「キラ、見てくださいな。綺麗な貝殻ですわ」
「ほんとだ。ピンク色だね」
「ふふ。集めて首飾りにするのも、良さそうですわね」
「あぁ、そっか。そういう利用法もあるんだ」
「はい。とても楽しいですわ、キラもどうですか?」
「うーん」

自分がするわけにはいかないだろうけど、ラクスにあげるためなら良いかもしれない。瞳を輝かせて砂浜にしゃがみ込んでいる少女に、そう思った。

「あれ、トリィ」
「どうしたのでしょうか」

空を舞う、メタリックグリーンに気付いてキラは手を伸ばす。すると吸い寄せられるように、トリィはその腕にとまってきた。首を傾げて鳴く姿に、ラクスは小さく笑ってくちばしをちょんと突っついた。

「トリィもみんなに追い出されたのか?」
<トリィ?>
「ではトリィも一緒にお散歩しましょうか」
「そういえばハロは?」
「家にいますわ。外には出たくないようでしたから」
「ふうん」

相変わらずこの少女は、ハロやトリィに対して感情があるかのように接する。ついつい話し掛けてしまう自分も、彼女のことはとやかく言えないけれども。
トリィに語りかけている姿は、本当にどこかのお姫様のように穏やかで優しい空気をまとっている。こんな場所に、ずっといられたのなら。平和を愛し、深い洞察力を備えた少女が、ただ微笑んでいられる世界であれば。

なんとなく、キラも気付きはじめていた。
きっと彼女は世界のために、いつか立ち上がる準備を整えているのではないかと。

戦うことのない世界を望んでいるけれど、それを訴えるにはやはり力がなければ押し流される。
それを愚かと知っていながら、力を手にとって戦ったあの日。

傷ついているのは自分だけではない。
この少女だって、父親を亡くし仲間を失い。心ない言葉を向けられたことだってあっただろう。

けれど懸命に生き、子供たちに笑顔を向けている姿にいつも救われる。

そして自分の弱さに気付かされるのだ。

いまだ前に進むことができない。このままではいけない、世界はまだ危うく脆い。自分は関係がないと目を背けていては、先の大戦の繰り返した。皆がそれぞれ見守っていかなければいけないのに、そうすることがいまの自分にはできない。

「あ、キラーラクスー!来て来て!」

子供たちが家から顔を出して手を振っている。どうやら準備ができたらしい。
暗い思考を消して、キラはラクスと目を合わせる。返ってきた柔らかな微笑みにどこかほっとして、二人は歩き出した。















「「「ふたりともありがとー!!」」」

家に入るなり降り注ぐ明るい声と、クラッカーの音にキラもラクスも唖然として立ち尽くす。
その様子に大成功!と子供たちが大喜びする。
何がなんだか分からず困惑していると、楽しそうにカリダが微笑みながら歩み寄ってきた。

「子供たちがね、あなたたちのために何かしたいって」
「え」
「私たち…ですか?」
「えぇ、いつもお世話になってるお礼だそうよ」

やっと思考回路が落ち着いてきて、状況が呑み込めてくる。
口々にありがとうと満面の笑みで言ってくれる子供たちに、ラクスは本当に嬉しそうに笑んだ。

「それで準備をしてくれていたのですね。みなさん、ありがとうございます」
「びっくりしたー?」
「はい、とても」
「えへへ、やったね!」

無邪気に喜んでくれる姿に、キラはなんと返したらいいのか分からない。
お礼を言うのはこちらの方だ。いつもその何にも汚れない無垢な心に、自分は慰められているのに。

惜しみなく分け与えてくれる温かさに、ふいに泣きそうになる。

「ごちそうなんだよー!」
「はやく食べようよ、お腹空いちゃった!」
「ふふ、そうですわね。みなさんが作ってくださったのですか?」
「そうだよ」
「しっぱいしたのもあるけど、がんばったの」

確かに微妙に焦げているものもあるけれど、逆にそれが愛しさを感じさせる。
目尻に浮かぶ涙を必死に隠しながら、キラも精一杯の笑顔を浮かべた。

「うん、美味しいよ」
「ほんとー?」
「えぇ、みなさんが一生懸命作ってくださったものですもの。とても美味しいですわ」
「やった!」

羽根を動かしているトリィも嬉しそうに見えるのは、自分の気持の問題なのだろうか。けれど先ほどから辺りを跳ね回っているハロも、テンションが高いような気がする。
それを見守るラクスの瞳も、とても穏やかだ。

本当に、自分はなんて恵まれているのだろう。

なんて幸せなのだろうか。













小さな存在が、こうして力をくれるから。


だから自分はまだこの世界にとどまっていられる。

暗い物思いに、後ろから聞こえる声に、囚われそうになるけれど。


まだ、大丈夫。


きっと歩いていけるよ。


もう少し、あと少しだから。



胸には熱い何かが、しっかりと色づいているから。









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