流星の空に

守りたいものがあった。
そのどれも守れないような気がして、僕は途方に暮れていた。戦いを終わらせる、その目的を遂げられた今でも、その想いは消えていない。
僕が傷つけたあの子。僕にぬくもりをくれたのに。僕は何もできないままで。目の前で、彼女が散っていくのを止められもしなかった。

「キラ?」
「う、ん。大丈夫……」

ストライクルージュに収容されたキラは、心配そうに顔を覗き込むアスランにぎこちなく笑ってみせた。

「とりあえず、どっちに向かった方がいい?」

操縦席からカガリが尋ねる。

「そうだな。医療技術がそろっている方がいいだろうから」
「アークエンジェル?」
「ああ」

ふたりの会話を遠くで聞きながら、キラは馳せていた。
自分と似ていた男の言葉を


  これが運命さ 知りながらも突き進んだ道だろう
  この憎しみの目と心と 引き金を引く指しか持たぬ者たちの世界で!
  何を信じる? なぜ信じる?


心を襲う強い孤独感、喪失感にキラはぎゅっと目蓋を閉じる。涙で濡れた目が少し痛い。
そんなことない。それだけじゃないと信じたい。

「おい、坊主!生きてるか!」

耳もとに響くのはマードック軍曹の声。整備士の彼は、きっとこれからが忙しいのだろう。
アスランが説明しているのが聞こえる。

「……それで」
「ああ、分かった分かった。坊主をさっさと運んでくれ」

はい、と頷いてアスランがハッチから出る。
無重力のおかげで、キラを運ぶのもとくに困らなそうだ。

「アスラン!」
「?」

下の方から聞こえる自分を呼ぶ声に、アスランは振り返る。

「!イザーク」

まさかアークエンジェルにいるとは思わなかった。
驚いたように目を見開いているとイザークはふんと鼻で笑う。

「生きていたようだな」
「ああ……。イザークも」
「ディアッカもな」
そうか。満足そうに微笑むと、イザークは背を向けて自分のMSへと向かった。
「イザーク?」
「俺はプラントに戻る。きっと、混乱しているだろうからな」

いつの間にかイザークも成長していたようだった。
戦争のこの結果を、怒ることも悔しがることもなく、ただ現実を静かに受け止めている。

「…それに、母上も」
「エザリア様が……何か?」
「気付いただろう、貴様も。停戦協議の提案放送の声はアイリーン・カナーバだ。
母上ではなかった」
パトリック・ザラに続く権力者はイザークの母、エザリア・ジュールだったはず。
「俺は、俺のできることをしてくる」

そう言ってハッチへ消えていくイザークを、アスランは切ない想いと共に見送る。
親と違う道を選んだ自分。そしてイザークも結果的にはそうなる。

「アスラン……」
「……カガリ」
キラを抱えて宙を漂っていたカガリが、心配そうに声をかけてくる。
「……行こう」
「うん」

例え、向かう道が違ってしまったとしても、まだ生きている。
ならば方法はいくらでもあるはずだ。そう信じたい。


耳鳴りがする。虚ろな意識の中、声だけが響く。


  あってはならない存在だというのに!
  知れば誰もが望むだろう! きみのようになりたいと!
  きみのようでありたいと!


そんなことっ……!

勝ち誇ったような男の声に、キラはただ呻く。


  ゆえに許されない!きみという存在は!



たしかにそうかもしれない。
持たざる者は持つ者を拒む。でも。


「キラ!」
「………っつ」

ふいに聞こえた澄んだ声に、キラは微かに目を開いた。
視界に入ったのは、心配そうに覗き込む青い瞳と、ピンクの髪。

「……ラ、クス…」
「私が、分かりますのね」
「……うん、分かるよ」

そう頷くと、安心したように大きな瞳が揺れる。

「アスラン、とカガリ、は?」
「他の方々と、これからについて話し合っていますわ」
「……みんな……」
「ええ。アークエンジェルもクサナギも、エターナルも無事です。……でも」

ラクスの表情が曇る。

「ムウさんが……」
「……そう」

なんとなく、思っていた。
あの男を止めたがっていたのはムウだ。
それなのに、彼が現れないのはおかしいと思った。

「マリューさんは?」
「いまは気丈に振る舞ってらっしゃいますわ」

艦長という立場上、感情に溺れているわけにはいかないのだ。

「それから、アサギさんたちも」
「……また、たくさんひとが死んだんだ」

いままでも、たくさんの命が消えていった。
自分が消してしまった命だってある。

「でも、これで終わりにできるかもしれません」
「……うん」

たくさんのものを失った。守りたいもの、大切なもの。家族、友人、恋人。

「……僕は、けっきょく…何も出来なかったのかもしれない」

たしかに戦争は終わるかもしれない。でも。

「何も……守れなかった……何ひとつっ」

また涙が溢れる。あんなに泣いたのに、まだ。
すると、その涙をそっとラクスが拭った。また、あの柔らかくも強い意志を覗かせる笑顔を浮かべている。

「そんなことはありませんわ、キラ。いま、こうして私は生きています。そしてあなたも。アスラン…カガリさんも」

ラクスはいつだって事実だけを告げる。
失ったものは多い。
けれども、いまこうして腕の中に残っているものも、たしかにあるのだ。

「キラ……ありがとう」
「……え?」

ラクスの瞳に涙が浮かぶ。

「あなたは帰ってきました」
「……ラクス」
「ありがとう、キラ」



アークエンジェルのブリッジでは、それぞれが今後について話し合っていた。

「とりあえずは、休息だな。これだけ疲弊していては、作業もおぼつかない」

バルトフェルドの言葉に、誰もが頷く。
辛い戦いだった。
それぞれが何かを失い、悲しみを抱いている。

「お前はどうするんだ、ディアッカ」

アスランに尋ねられ、ディアッカは額にしている包帯をいじりながら首を傾げた。

「どうってもなぁ。なんかいまは、なんも考えられないって感じ」
「……そうだな」

色々なことが、ありすぎた。

「でも、ま。少なくとも一度は、本国に戻らないとな」

え?と顔を上げると、少し恥ずかしそうな顔をしたディアッカがいる。

「ほら…どうせ俺、MIAとかの扱いになってんだろ?」
「ああ……」

オーブ近くでの戦闘のさい捕虜となったディアッカは、行方が分からないまま、ということになっていた。

「殺されちゃたまんねーもんなぁ、生きてんのにさ」

あっけらかんとした言葉にアスランは小さく笑った。

「お前こそ、どうすんだよ。これから」
「……本国へは、しばらく戻りたくないな」

苦い記憶が多すぎる。
父に追われ、狂気に満ちた父の最期を見たあそこには。

「イザークは喜びそうだよなぁ、せいせいするとか言ってさ」
「……イザークは、これからが忙しそうだな」

きっと彼のことだ、精力的に働くのだろう。

「その手助けができたらなって、思ってんだ俺」
「ディアッカ……」

驚いたように目を開くと、ディアッカは視線をそらして頬をぽりっとかいた。

「今回、生きてられたのも……あいつのおかげだしさ」

やられそうになったとき、イザークが助けてくれたのだ。
そんな命がかかっている状況でさえ、あいつは偉そうだったけど。

「そういやさ、キラは?」
「いま治療をうけてる。ラクスが付き添っているが」

すると、ブリッジがにわかに騒がしくなる。
なんだろう、と振り返るとキラとラクスがやってきたところだった。

「キラ!」

真っ先にキラの方へやってきたのは、やはりカガリだ。

「もう、大丈夫なのか?」
「うん。歩いたりするぐらい、平気だよ」

命に別状はなさそうだが、気力はすっかり無くなってしまったようだ。
無理もない。
今回きっと誰よりも苦しんだのは、キラなのだから。


   僕は軍人なんかじゃない!


そう通信の向こうで叫んでいたキラ。
自分のように、戦うという意志のもと集ったのではないのに、戦わざるをえなかった。
それは、どんな気持ちなのだろう。

軍人として決意していたはずの、自分ですら迷いや痛みを感じることはあった。

「キラ……」
「……アスラン。医務室まで運んでくれて、ありがと」

その笑顔がぎこちない。

「キラぁ!」
「うわぁっ!か、カガリ?」

いきなり抱きつくカガリに、キラはびっくりしている。

「よく、よく生きてたな!お前っ!」
「え……?」

必死に抱き締められ、少しキラは苦しそうにしていたが、カガリの言葉に動きを止めた。
彼女の方を見ると、目にいっぱい涙をためている。

「だってお前、死ぬんじゃないかって心配してたんだぞ!」

そんなに頼りないのかな、とキラは苦笑する。

「うん…」
「アスランだって、死のうとするし……」
「え」

キラが驚くと同時に、アスランがぎくっとする。

「ジェネシスの自爆シークエンスと発射が、連動しているのに気付いて。
それを止めるために内部で核爆発を起こすからって、ジャスティスを自爆させたんだ」

それで、死のうとしたのか。
アスランの方に視線だけ送ると、それに気付いた彼が少し困ったように笑う。

「でも、いまこうしてアスランもカガリさんも生きていますわ。そして私もキラも」

ラクスの言葉にまだ泣いたままでカガリが頷く。
力いっぱい抱き締めてくる彼女の腕が、痛かったけど……嬉しかった。



スペースコロニーL4、メンデル。
キラたちが拠点としていた場所に、また再び彼らは戻ってきた。
それぞれにすべきこと、したいことを今は行なっている。

「え、ミリアリアも地球に降りるの?」

ドリンクを飲みながら尋ねるキラに、ミリアリアは頷いた。

「ひと段落したら、やっぱり家族に会いたくなっちゃって」
「俺も、たぶん降りる」
「サイ……」
「色々あったけどさ、とりあえず……いまは休みたいよな」

うん。そうだね。
色々なことがあって、何があったのかも分からなくて。
それでもいま、自分たちは生きている。

「マリューさんも降りるみたい」

キラの言葉に、ふたりとも表情を曇らせた。

「そう、だよね。やっぱり……」
「ミリィ……」

サイが気遣うように声をかけると、にじんだ涙を拭ってミリアリアが笑う。

「戦争、これで終わるといいね。本当にもう……こんな思いは嫌だもん」
「ああ……」
「そうだね」

こうやって話せる。
その現実に、キラは少しだけ救われた。
たしかに、守れたものもあるのだ。



「ほら、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だって言ってるだろ!」

腫れぼったい目をハンカチで押さえながら、カガリがむくれる。

「あんなに泣くから」
「うるさいな!嬉しかったんだから仕方ないだろ!」

感情がすぐ出てしまうカガリは、今日は泣きっぱなしという感じだ。

「カガリ」
「ん?」
「ありがとう」

突然、真面目な声になるアスランにカガリは狼狽える。

「な、なんだよいきなり」
「あのとき……俺を止めてくれて」

そう言うと、あぁと納得したように頷く。

「礼を言われるようなことじゃない。私ひとり助けてもらったところで、嬉しくないって言いたかっただけだ」

カガリの言葉にアスランはくすりと笑う。
それが彼女には気に入らなかったようだ。

「なんだよっ」
「いや、そういうヤツだよお前は」
「どういう意味だよそれは」

さらに問い詰めようとしたとき、廊下の向こうからキラとラクスがやってきた。
もみくちゃにされたのか、キラはすっかり疲れているようだ。

「もう休むのか?」
「うん、まだ回復してないから……」

それに、気持ちが憔悴しきっていた。
ラウ・ル・クルーゼ。
あの男の言葉に、はっきりと言い返せなかった自分が悔しい。

引き金を引き指しか持たぬ者たち。
彼はそう言った。
そんな世界で何を信じるのか、なぜ信じるのかと。

「そっか。ゆっくり休んで、しゃきっとしろよな」

まだハンカチで目蓋を押さえながら、カガリが言う。
そうだね、と力なくキラは頷いた。
隣で付き添っているラクスも、自然と微笑んだ。

「カガリさんも、休んでくださいね」
「分かっている。お前もな」
「はい」
「あとアスランもだからな!」

強くびしっと指差され、アスランは苦笑する。
彼とて精神的疲労はかなりのものだろう。
父を止められず、父を失った。

「……信じられる、気がする」
「え?」

小さく呟いたキラに、三人が視線を向ける。

「憎むだけが、人間じゃないって……傷つけるだけが、全てじゃないって」

ここにいる者たち。
敵という名で分かたれ戦った者同士が、いまはこうして集いひとつの目的を遂げた。

「あったりまえだろ。それだけだったら、誰が守りたいと思うか」

カガリがふんと鼻をならす。

「傷つける人もいれば、優しさをくれる人だっています。憎む人もいれば、愛する人も」
「……うん」

いまここで、自分といてくれる人達。
それが答えなのではないかと、キラは思った。
憎しみの心を優しさに。
引き金ではなく、傷を癒すためにその指があるように。

「失ったものは多い。でも、それだけを見ていても仕方がない。キラ」
「そうだね……アスラン」

失ったものは戻らない。
その悲しみにまかせて、さらに多くを失うわけにはいかないのだ。
それよりも、また新しいものをつくっていくしか。

「ほら、さっさと休め」
「うん」

力だけが僕の全てじゃない。
あの男に自分はそう叫んだ。
男はさらに問う。
それが誰にわかる?分からぬさ、誰にもと。

「……そんなこと、ない」
「キラ?」

廊下を移動しながら、低く呻いたキラにラクスは心配そうな顔をする。

「力だけが、僕の全てじゃ……ない」

なぜキラがそう言ったのか、ラクスには分かっていなかっただろう。
だが彼女は静かに微笑む。

「ここにいるあなたが、キラ。あなたの全てではありませんか?」

こうして傷付き、憂いているのも。
カガリやアスランに安堵を与えるのも。
みんなが、自分が帰って来たことを喜んでくれたのも。

「取り敢えず今は、休みましょうキラ。本当に……色々なことが、ありすぎました」

こうして気遣ってくれる人がいる。
それが、いまの自分にとっての全てなのかもしれない。



「マルキオ様のところへ行きませんか?」

次の日、ラクスがそう提案してきた。

「いまマルキオ様は戦争の孤児たちの、お世話をしておりますの。そのお手伝いができたら、いいなと思ったのですけれど」
「いいな、それ」

カガリがすぐに話に飛びつく。
アスランも、小さく頷いた。

「そうだな……地球に降りるのも、いいかもしれない」

自分達の本当の故郷。
青い星で、身体と心を癒すのも良いだろう。

「どうする?キラ」
「……うん、行こうかな」

相変わらず声には力がない。

「どこにあるんだ?」
「オーブに近い場所ですわ、北方領域の近くにある群島海域です」

キラとアスランが互いの命を求めて戦った場所だ。
そしてカガリが戦争の虚しさを知った場所。
アスランとキラが友人であったのに、戦わなければならなかったことを知って、こんな悲しいことがあっていいはずがない、と涙ながらに訴えた場所。

   殺されたから殺して……殺したから殺されて……
   それでホントに……最後は平和になるのかよっ……!

責めてほしかったのかもしれない。
キラを手にかけたことを。
本国では責められるどころか、むしろ誉められるばかりで勲章までもらってしまった。

なぜ。友人を撃った俺がなぜ、褒め称えられなければならない……?
小さい頃から一緒で、どんなふうに笑うのかどんなふうに泣くのか、それを知ってるあいつを。
そんな幼友達を撃った俺を、なぜみんな。

ただひとり、責めてくれたカガリ。
お前は敵ではなく、友人を殺したんだと。
そんなことが許されるはずがないと。
なぜ、お前がキラを殺さなくてはならなかったのかと。

俺と同じ、悲しみの涙を流しながらそう叫んだ。
それがなかったら、自分は正気を保っていなかったかもしれない。

そして死んだと思っていたキラが、助けられた場所。
それが群島海域にある小さな島にひっそりとある、マルキオ導師の家。

「そっか、あの辺りか」

納得したようにカガリが頷く。

「さっそく準備しないとな!」
「乗り気だね、カガリ」

くすりとキラが笑うと、カガリも笑顔でこたえる。

「ずっと宇宙にいたからな!地球に降りれると思うとさ」

その言葉にアスランが頷いた。

「そうだな。お前は、地球が似合ってる」

人間にはコントロールできるはずもない、雄大な自然。
その中で、のびのびと笑う彼女。
そんな姿の方が、いい。

「私、地球に降りるのは初めてですから、とても楽しみですわ」
「……そっか。ラクスはプラント生まれ?」
「ええ。ですから、一度も地球へ行ったことはありませんの」
「いいぞー地球は。海もあるし、虹だって見れるし。流れ星なんて最高だ!」

カガリの説明にラクスが微笑む。

「私達には少し……時間が必要ですわね」
「……ん?」

キラが顔を上げると、ラクスが首を傾げた。

「心を癒し、休める時間が」
「……うん」

すべき事はたくさんある。
戦争も完全に終わったわけではないし、それぞれの国で復旧作業が行われるだろう。
破壊され、燃やし尽くされた大地は、作物を生み出すようになるまで、相当の時間がかかるはず。

「孤児の世話を、するんだろ?」
「ええ」
「そっか。何かできるといいな、私達も」

自分達だけでなく、その子達とて失ったものは多いだろう。
そんな子を少しでも助けてあげられれば。

「アスランは、子供の扱い下手そうだな」
「え……?」

急に話を振られ、アスランは戸惑う。
その様子にカガリが笑った。

「どう扱っていいか、分からないタイプだろ」
「そ、そんなことは」
「アスラン、厳しいし」

キラがそう付け加えると、カガリがほら見ろと満足気な顔をする。

「キラ!」
「本当のことでしょ」

そう言われ、言葉に詰まる。
四歳の頃から長い月日を共に育ってきたのだ、反論するだけ無駄だろう。
つまり、キラには自分がそう見えるということだ。

「大丈夫だよアスラン。アスラン優しいから、子供達も分かってくれるって」

いまさらフォローされても、とアスランは溜息を吐く。

「カガリさんは、好きそうですわね」
「ん?そうだな、子供は好きだぞ。弟とか妹欲しいなーってずっと思ってたし」

カガリらしい、とその場にいる者が笑う。

「楽しみですわね」
「うん。そうだね」

この窓から見える宇宙とも、しばらくはお別れかなとキラはふと思った。
無数の星が輝くこの空間。
地上に降りてしまえば、これほどの星はきっと見えないだろう。
それはあの地球が大気に包まれ、守られているから。



シャトルに乗って、キラ達は地球へと降りていった。
マリュー、サイ、そしてミリアリアもやはり地球へ降り、実家へと戻っていった。
ディアッカは言っていた通りプラントへ。
バルトフェルドやキサカ、エリカ・シモンズは宇宙に残り、色々な後片付けをするらしい。

「うわー、凄い流れ星」

マルキオの家へ着いたその日、空を見上げてカガリがそう言った。
彼女は気付いていただろう、その流れ星が自然の隕石などによるものではないことに。

宇宙での戦いの残骸。
それらが地上に降り注ぎ、それが流れ星となって人に映っているだけなのだと。

「ラクス様、ようこそ」
「マルキオ様。お世話になります」

盲目であるはずなのに、しっかりとした足取りでマルキオが現れた。
子供達も一緒だ。

「この子らのこと、よろしく頼みます」

彼の言葉に、カガリとラクスが快く応じる。
それに安心したように頷くと、マルキオはキラとアスランの方へ身体を向けた。

「どうぞいまは、穏やかにお過ごしください。あなた方が守られた、この地球で」
「……はい」

守りたい世界がある。

そう自分は叫んだ。
それがなんなのか、本当の意味で理解してはいない。
でも、迎えてくれる人達がいる。
自分を待っていてくれる人がいる、そんな世界が。

だから自分は問い続けるのだろう。
悲しい記憶を抱きながら、優しい存在の中で。
降り注ぐ過ちの残骸を見上げながら、ただその胸と心に。



   なぜ僕達が、こんなところまで来てしまったのかを……。







fin...