++ 平和の日 ++























「おい、アスラン。早駆けの競争しないか」
「競争って…カガリ、もし落馬でもしたらどうするんだ。オーブの代表が…」
「あーもう!今日ぐらいはいいだろ!せっかくの休みなんだからさ」
「休みとはいっても、一応プラントとの交流という名目で来ているんだぞ、俺たちは」
「交流してるじゃないか、ちゃんと」

きょとん、と目を瞬くカガリにアスランは頭を押さえた。その横で諦めとけよ、とディアッカが肩を叩いてくる。そんなこと、できるものならとうにしている。だが自分が言わなくて、誰が言うというんだ。

「どこが交流だ。これじゃただのピクニックだろう!」
「ただの、じゃないぞ。オーブの代表と、プラントの歌姫が揃ってのピクニックだ。どうだ、充分に二つの交流になってる」
「………プライベートと何が違うんだ」
「公式にピクニックができるなんてすごいな!」
「そうじゃない!!」

満面の笑みで振り返る代表にもう何を言っても無駄だと悟る。
相変わらず貧乏くじを引く旧友に、いつまでも変わらないなこいつも、とディアッカは襟元を緩めながら思った。

ここはプラントで、広い草原が視界いっぱいに広がる。

カガリの言った通り、本日はオーブの代表である彼女と、プラントで歌姫と呼ばれメサイア戦の後に評議会に戻ったラクスとの両国の交流を行う予定であった。会談のようなものと想像していたアスランは、いきなり案内されたのがここで唖然としたものである。

「って、当のラクスはどこにいったんだ?」
「とっくにキラが連れ出したぜ。馬に乗って」
「はあ!?」

久しぶりに会った親友は、このピクニック状態に驚きもせず、楽しそうだねと最愛の人に微笑んだりしていた。なんとも呑気な様子に、本当に変わらないんだなとアスランは頭痛を覚えたものである。そしてラクスもたおやかに微笑んで、そうですわねと頷いたりしていた。

「………俺、もう帰りたい」
「一応アスハ代表の護衛として来たんだろ?仕事はしようぜ、アスラン」
「…それを言うなら、お前はどうなんだディアッカ」
「何がよ」
「お前は、ラクスの護衛として来たんじゃないのか」
「確かにそうだけどさあ。けど、キラがいれば充分だろ。イザークもそう言ってたし」
「……イザークが認めてるのが珍しいな。そういえば見かけないが」
「あぁ、馬を連れに…」
「アスラン!」

噂すれば陰あり、というが。
馬に乗ってやって来たイザークに、アスランとディアッカは振り返る。彼の後ろには部下であるシホもいた。馬屋から駆けてきたのか、わずかに息が弾んでいる。

「勝負だ」
「はあ?」
「イザーク前に、乗馬は馬で差が出るから勝負しないって言ってなかったっけ?」
「ふん、馬の差など俺が実力で除いてみせる」

馬の上でふんぞり返ってそう息巻くイザークに、アスランは何度目か分からない頭痛を感じた。アスラン用の馬なのか、シホが素早く下りてどうぞ、と真面目な表情で口添える。さすがイザークが気に入っている部下なだけある、いつでも本気だ。
だがアスランとしては気乗りせず、一度だけでは勝負が終わらないだろうなということも分かる。どうやって断ろうかと考えていると、カガリが馬に乗ったまま戻ってきた。

「なんだアスラン、勝負でもするのか?」
「え?あ、いや…」
「面白そうだな、私も混ぜてくれ」
「え」
「手加減はせんぞ」
「望むところ!」

イザークもすっかり丁寧な態度を改めてしまっている。勝負を前に、そういったことは全て吹っ飛んでいるに違いない。
がっくりと肩を落とすアスランに、ディアッカが苦笑しながら口を開いた。

「まあ、付き合ってやれってアスラン」
「……ディアッカ」
「お前ずっとオーブだしさ、イザークも色々と溜まってるんだろ」
「何が」
「キラたちのバカップルぶりを見せつけられてる、俺らの身にもなれって」
「………あぁ…」
「さあ、行くぞアスラン!」
「早くしろって!」

似たもの同士らしい二人の勝負の誘いに、どうやら断る術はないらしい。
溜め息をひとつ吐いて、アスランは用意された馬に跨るのであった。





















「あ、あれアスランとカガリだ」
「本当ですわ。ジュール隊長もいらっしゃいますわね」
「うん、競争でもしてるのかな」
「ふふ、楽しそうで何よりです」

キラが駆る馬に乗せてもらいながら、ラクスもくすくすと楽しそうに笑みを漏らす。
評議会でいつも厳しい表情を見せている彼女だが、こうして二人でいるときは穏やかな笑顔を見せてくれて、それがキラは嬉しい。少しでも、自分の傍がラクスにとって落ち着くものであればいい、といつも思っているから。

彼女にはたくさん助けてもらって、力をもらった。
だから自分も、ラクスに何かをしてあげられたらと、そう思う。

「キラが馬に乗れたのは、少し驚きました」
「カガリにもびっくりされた。そんなに意外かな」
「少しだけ。でも素敵ですわ」
「ありがとう」

手綱を握って再び馬を走らせる。腕の中にいるラクスを感じながら、キラは飛ぶように過ぎていく景色を見つめた。
あの戦いから数年が過ぎて、世界は少しずつ進み始めている。まだ癒えない傷はあるし、問題だって山積みのままだ。けれど確かに温かい何かが、自分たちの中には宿り始めているような気がする。これが、希望なのかもしれない。

「キラ、どちらへ?」
「この先に、すごい綺麗な景色があるんだって。メイリンが教えてくれたんだ」
「まあ」
「そうだ、後でシンとルナマリアにお土産買ってあげなきゃ」
「そうですわね。皆さんお留守番で、残念でしたもの」
「うん、シンもちょっと拗ねてた」
「ふふ、そうですか」

キラに身体を預けながらラクスが無邪気に笑う。
その姿に目を細めて、キラは目的地に辿り着いたのに気付いて手綱を引いた。

瞬間、広がる景色にラクスが目を見開く。

一望できる山々と、そこから流れ落ちる大きな滝。
ここはプラントなのだから、人工のものだと分かってはいても、充分に綺麗な景色だった。

「うわあ…すごいね」
「はい!とても素敵です」
「メイリンに感謝かな」
「こんな場所がプラントにもありましたのね。私もまだまだ知らないことがたくさんですわ」
「そうだね、僕も」

そっとラクスの腰を抱き寄せると、彼女はゆっくりと顔を上げる。ぶつかるサファイアの瞳に笑みを零して、キラはそっとラクスのおでこに唇を落とした。優しい口づけに、ラクスの白い頬がわずかに赤く染まる。
それを満足気に見つめて、キラはピンク色の髪に自分の顔を埋めた。

「…きっと、知らないことってたくさんあるんだろうね」
「はい」
「………それを、こんなふうに。ラクスとひとつひとつ、知っていけたらって思うよ」
「……私もです、キラ」
「うん…ありがとう」
「きっといままで見てきたものも、あなたとなら、もっと美しいものに見えるのでしょう」
「え?」

驚いて顔を向けると、ラクスはふふと楽しそうに笑んで、こちらの頬を両手で優しく包み込んだ。
少し自分よりもひんやりとした手に、そっと少年はアメジストの瞳を細める。

「大好きなひとと見る景色は、きっと、とても綺麗だと思いますわ」
「………ラクス」
「当たり前のように迎えていた朝が、あなたがいるだけでとても幸せなもののように感じる。それがとても、不思議」
「うん、そうだね。不思議で……すっごい素敵なこと」
「はい」

こつん、とおでこをぶつけて目を閉じる。
こうして腕の中に愛しいひとがいてくれる、その奇跡。

「一緒に、色々なことを知って、見て、感じていこう」
「はい、喜んで」
「ねえラクス」
「はい?」

ふわりと穏やかな風が、ラクスのそして自分の髪を揺らしていく。

風に消されてしまわないようにと、キラは恋人の耳に唇を寄せて、優しく囁いた。


「大好きだよ」


その言葉が耳に届いて、ラクスが視線を合わせてくる。

次の瞬間、彼女が浮かべた笑顔を。


きっと、ずっと忘れることはないだろう。


そう思うほどに、彼女の微笑みは優しく、愛しかった。





















「なぁ…シホ」
「なんでしょうか副長」
「お前もイザークたちの競争に混ざればよかったんじゃないの?」
「なっ!?そ、そんな滅相もない!」
「………イザークなら嫌がらないと思うぜ」

むしろより燃えるんじゃないか、あいつなら。
そう考えるディアッカの横で、黒髪を揺らした少女は顔を真っ赤にしたまま、あたふたと慌てている。イザークもそうだが、このシホという少女もいったいどこまで疎いのだろうか。

「………俺、いつからこんなに面倒見よくなったんだかなぁ…」

お前らがいなくなったせいだぞ、と。
空を睨みながらディアッカはいなくなった仲間たちを思った。























fin...