++ 雪の日に ++ シンルナver
















「ちょっと、シン!そんな薄着で何してんのよ!」
「ルナ…」

どこかぼんやりした様子で振り返る少年に、ルナマリアは腰に手をあてたまま眉を顰める。

「ルナ…じゃないわよ。もう、風邪引いたって知らないからね」
「引かないって、別に」
「あーまーい。コーディネイターだって熱出すときは出すんだから」
「…わかってるよ」

やっぱりどこか覇気のないシンの返事に一瞬だけ間を置いて、ルナマリアは歩き出した。
今月に入ってから季節が冬へと調節されたプラントは、景色が真っ白に染まっている。歩けば足元からざくざくと、雪を踏みしめる特有の音が響いてきた。妹はそれを嬉しそうに楽しんでいたっけ、ヴィーノたちと共に。

すぐ隣まで移動して、持ってきていたコートをシンの頭にばさりとかぶせる。

「わっ!?」
「シンが風邪引かないように心配して、持ってきてあげたのよ。ちょっとは感謝してよね」
「………ありがとう」
「え、どうしたのシン。やけに今日は素直じゃない」
「素直じゃ悪いのかよ」

むす、と紅の瞳を向けてきた少年にだってねえ?と首を傾げる。

「いままでの自分の行動をよく振り返ってみるよーに」
「う」

やはり自覚はあるのか。

そのことがおかしくて、くすくすと笑ってしまう自分を、恨めしげにシンが睨んでいるが怖くもなんともない。もそもそとコートを羽織る様子が、むしろ可愛く見えてしまうぐらいだ。こういうとき、彼は自分より年下なんだな、とふと思ってしまう。
そしてコートを羽織ったシンが、じっとこちらを見つめてきて何?と首を傾げる。

「ルナ、手袋も何もしてないのか?」
「あぁ、だってポケットに入れてればあったかいでしょ」
「………そういうところ横着だよな」
「何よ、悪い?」
「別に。ほら、手」
「え」

ぶっきらぼうにシンが手を差し出してくるのだから、一瞬どういうことだろうと目を瞬いてしまった。
きょとんとしているこちらを見て、耐え切れなくなったのかシンは不機嫌そうな表情のままぐっと手をつかんでそのまま自分のポケットに入れてしまう。そのせいで引っ張られたルナマリアの身体は、とん、という小さな震動と共に少年の腕に寄り添う形でぶつかった。

びっくりして手を繋いだシンの横顔を見つめると、全く視線が合わない。
けれどもその頬は赤く染まっていて、くすりと思わず笑ってしまった。

「シンの手、あったかーい」
「ルナが冷えすぎなんだよ。ひとのこと心配する前に自分のこと心配しろよな」
「だってシンってひとりにしとくと危なっかしいんだもの」
「はあ?」
「また暗いこと考えてるんじゃないかなーとか」
「………」
「あ、正解?」
「うるさい」

怒ったような顔をしているけれど、繋いだ手を離そうとはしない。そのことが嬉しくて。
素直じゃないわねえ、とルナマリアは少年の肩に自分の頭をぽふりとのせた。

「こういうときはね、甘えていいのよシン」
「………は?」
「何その間抜けた声」
「いや……こういうときって、どういうときだよ」
「寒い日とか、ちょっとブルーな日とか?」
「寒い日って…」
「人肌恋しくなるでしょ?どっちの日も」

人肌、という言葉にシンの頬がぐわっと赤くなっていく。こういう反応は素直なんだな、とくすくす笑みを漏らしてしまうと、思い切り睨まれてしまった。照れ隠しだと気付いているから、ルナマリアは舌をぺろりと出して笑うだけ。

「だから、私も甘えようかな〜って思ったのに、シンがいないんだもの」
「…え」
「それでここまで探しに来たわけ。あーあ、女の子にこんなこと言わせないでよね」
「ご、ごめん」
「………そこで謝られる方が微妙」
「じゃあどうしろってんだよ」
「こういうときは、何も言わずぎゅーっと抱き締めるとか」
「できるか!」
「そうだろうと思ったわよ」

真っ赤な顔で怒鳴るシンにルナマリアはつんと顔を逸らす。
どちらかの部屋とかでならともかく、ここは外。人通りは全くないけれど、いつ誰が通るか分からない。
そんな場所で彼が大胆なことを出来るとは塵ひとつも思わない。

だがあっさりと認められてしまったことが不満だったのか、シンは唸る。

その後で繋いでいた手をポケットから出したかと思うと、ぐいっと力強く引っ張ってきて。

後ろから抱き締められる形でシンのコートの中に引き寄せられてしまった。

「………え、シン?」
「これで文句ないだろ」
「ない、けど…。熱でもあるんじゃないの?」
「あのなあ」
「ふふ、うそうそ。ありがとう、シン」
「………別に」

頭上から降ってくるぶっきらぼうな声が愛しくて、ルナマリアは小さく笑った。

















他愛ないことを話して、真っ白に染まる街を眺めて。
会話が途切れても、すぐ傍にある温もりに胸には優しさが宿っている。

「………プラントの雪を見るとさ」
「ん?」
「俺がひとりになった日のこと、思い出すんだ。みんないなくなって、ひとりでこれを見てたこと」
「………うん」
「最初の年は、もうあれから一年が経ったのかってぼんやり思ってて、次の年には二年も経ったんだって思った。俺だけを置いて流れてく時間が、恨めしかった」
「だからシン、昔アカデミーの皆で雪遊びするとき誘いにのらなかったのね」
「そういう気分じゃなかったんだよ」

あの頃のシンは、本当に棘だらけで。少し何かに触れてしまえば、すぐにも牙を剥くような少年だった。
家族を一度に失ってしまった痛みというのは、それだけの傷を彼に残したのだろう。
自分もメイリンが死んだと思ったときには酷い喪失感と怒りを感じたものだ。

「ね、じゃあいまは?」
「え?」
「いまは雪を見ると、どう思う?」
「………力がなくて、守れなかったものはたくさんある。それをやっぱり思い出すよ」
「……そう」
「でも」

きっぱりと言葉を区切った少年に、不思議に思ってルナマリアは顔を上げる。
すると、こちらを見つめる紅の瞳とぶつかって。その目があまりに穏やかだったから。

「……シン?」
「だからこそ、いまある大切なものを守れるようになりたいって、そう思う」
「………」
「俺、すぐ頭に血がのぼって、忘れそうになるけど…。でも、今度は見失わないように」

そう自分に言い聞かせるように言葉を紡いだシンは、ぎゅっと抱き締める力を強めた。
その腕にルナマリアも自分の手を重ねる。

少年がくれた言葉が、本当に嬉しかった。

「ね、シン。ひとつだけ覚えておいて」
「?」
「私は、守られるだけの女じゃないんだから。私もシンのこと、シンの大切なもの、守るよ」
「ルナ…」
「一緒に、そうやっていこ?」
「………あぁ、そうだな」

ちょっとだけ照れ臭そうに笑うシンの胸に寄りかかり、ルナマリアもそっと微笑む。
冷たい空気の中で、自分たちの心は温かさに満たされて。

今年もまた、ゆっくりと季節が巡る。

哀しい思い出を抱きながら、優しさの記憶を刻んで。

愛しいひとと共に。
















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