喧嘩するほど…?






「貴様ああああっ!」

あぁ、今日はいったいどんなショボイ事で揉めてるんでしょうね。

最近では聞き慣れてきてしまった怒声に、ニコルは歩調を変えないまま、食堂に顔を出した。
目に入るのは、銀髪のさらさらとした髪を振り乱したイザークと、それをなんとか宥めようとしているディアッカ。

いつもいつも、元気ですよね。

そんな事を考えていると、自分に気付いたらしくラスティが手を振る。

「よお、休憩?」

オレンジの髪を楽しそうに揺らしている様子からして、きっと彼はこの事態を楽しんでいるに違いない。

「いったい何があったんですか?」

とりあえず尋ねてみると、今回も大したことじゃねえぞ、と肩をすくめて苦笑をされた。

「アスラン絡みですか」
「当たり」
っていうか、それしかねえよな。
ラスティの言葉にニコルも頷く。

視線をイザークたちに戻すと、怒鳴られているアスランが迷惑そうな表情を隠そうともせずに浮かべていた。

やれやれ、それがまたイザークの怒りを刺激するのだというのに。

「あいつら、よく飽きないよなあ」

いつの間にかミゲルがトレイを持ってやって来ていた。

「お疲れ様です。整備は済んだんですか?」
「あぁ。ちょっとてこずったけどな」
「あ、ミゲル。そのフライちょーだい」
「おいラスティ、食いたいなら自分でもらってこいよ」
楽しみにしていた料理をつままれ、ミゲルは少し不機嫌そうだ。
とくにそれを恐がりもせず、ラスティはにっと笑う。
「隣の芝は青いっていうじゃん。ひとが食べてんの見ると、欲しくなるの」
「僕のはとらないで下さいよ」


「貴様ら少しは空気を読め!」


後ろから耳をつんざくような声が聞こえて、三人はようやっと振り返った。

「おう、もう終わったのか?」
「お疲れさん。水ほしい?」
「あぁ…すまない。………って、そうじゃないだろうがっ!」

ミゲルとラスティのテンポに危うくのせられかけ、イザークは目をくわっと見開く。綺麗なアイスブルーの瞳がよく見える。

「なあイザーク、もうその辺にしとけって」

疲れた顔で口を挟むのは、クルーゼ隊で苦労性を比べさせたら右に出るものはいない、と言われているイザークのお世話係ディアッカだ。

「アスランはもう行ったぜ?」
「何いっ!?」

確かに先ほどまで、不機嫌面をしていた彼がいない。

逃げましたね。

紅茶を喉に流し込みながら、ニコルはそう推察する。

「あいつ!」
「ってかさ、俺たち昼飯食べにきたんだろ。いいかげん食べようぜ」
お腹を押さえている様子からして、相当空腹なようだ。
しかし怒り心頭のイザークに、その提案が受け入れられるはずもなく。
「いくぞディアッカ!!」
「どこによ」

「アスランを追いかけるに決まっているだろうがっ!」
「ああ?」

ものすんごい面倒そうな顔してますよ、ディアッカ。

イザークはそんな相棒にも気付かないらしく、ずんずんと食堂から出て行ってしまう。
その背中に、ディアッカは盛大な溜め息を吐いた。
「大変だな、お前も」
「ラスティ……」
にこにこと、音がつきそうな笑顔を浮かべ、ラスティが声をかける。
「同情してくれるなら、俺と部屋を替わってくれ」
「無理。アスランで手一杯」
ばっさりと即答してくれる。
まあ、アスランと同室っていうのも大変そうですよね。

「なんなら、僕が替わりましょうか?」

冗談でそう言ってみると、皆さん微妙な表情を浮かべてくれました。
いったい何なんですか?

「いや……うん、やっぱいいわ」
「そうだぞニコル。お前はやめとけ」

ミゲルにまで強くそう言われ、ニコルは不思議そうに首を傾げている。


「おいディアッカ!まだこんな所にいたのか!!」


下僕がついてきていない事に気付いたらしく、イザークが鼻息も荒く戻ってきた。ついに観念したのか、はいはいとディアッカが歩き出す。

食堂にやっと静けさが戻り、ニコルはデザートに口をつけた。

「でさ?今回の原因はなんだったわけよ」

ミゲルが尋ねると、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、あぁとラスティが笑う。
「喧嘩の原因か」
「そうそう。ま、大したことじゃないんだろうけど」
「いつもの事ですしね」

「今日のシュミレーションで、作戦を無視して突っ込むなって。アスランがそう注意してさ」

「………………予想に違わぬ反応だな、イザーク」
「単純ですよね」

ぽつり、と呟くとミゲルたちが引きつった笑いを浮かべた。
あれ?僕またいけない事でも言いました?

「それ、イザークの前でだけは言うなよ」
「言いませんよ。面倒なことになるの分かってるのに」

それじゃ、と笑みをひとつ浮かべてニコルは食堂を後にする。
その様子を眺めながら、ミゲルが安堵したように肩の力を抜いた。
「今年のルーキーは面倒な奴等ばっかりだぜ……」
「あはは、ザフトレッドってのはプライド高いの多いから」
「お前もか?」
他のメンバーよりは幾分親しみやすいラスティにミゲルは問う。すると、年下なんだなと思わせるような、楽しそうな笑顔を見せた。
「当たり前っしょ」

「こんなんで、今度の作戦大丈夫かよ……」

「大丈夫だって。ほら、いざとなったら俺たちがフォローすりゃいいじゃん。ニコルもいざというと
きは、たぶん役に立つしさ」

普段は穏やかで、争いには向かない性質だけれども。

「俺たちであいつ等の面倒みるのか?勘弁してくれって感じだな」

「なんだかんだいって、楽しいくせに」

年下のくせに生意気。そう言うと、発言が年寄りだなんて言い返される。
ほお、俺にそんな口利くとは良い度胸だ。




アスランとイザークそしてディアッカ。
合わないようでいて、いざとなれば物凄い連携を見せる三人。

あれか?喧嘩するほど……ってやつ。

いや、あいつ等の前でそれを言うのはやめよう。きっと睨まれるだろうから。

俺とラスティとニコルで見守ってやるしかないのかねえ。

いつまでも一緒にいられるわけじゃねえんだからさ。早く大人になれよ?

俺たちがフォローしてられるうちに、な?






fin...