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＋五周年記念・アンケート企画「星は謳う」＋
２．シンルナ編 機体の確認を終え、ヴィーノやヨウランに声をかけて格納庫を後にする。 赤いパイロットスーツを身にまとった青年は額の汗をぬぐい更衣室へと向かった。 ヘルメットを小脇に抱えながら進んでいくと、すでに着替えを終えたらしい恋人と鉢合わせする。彼女もずっとヘルメットを被っていたのだろう、短い髪が少し跳ねている部分があって思わず笑ってしまった。 「…何よ出会い頭に」 「髪、跳ねてるぞルナ」 「え、どこ！」 「ここ。あぁ、動くなよ」 手で撫で付けてやれば、割とすぐにおとなしくなる髪。 寝癖ほど厄介ではないらしい、とルナマリアの髪から手を離せばやや不機嫌な顔が。 「…何だよ？」 「シンこそ、セットなんだか寝癖なんだか分からないその髪どうにかしなさいよね」 「仕方ないだろ、これはくせっ毛なんだから」 「それにしたってもうちょっと切るとか」 「…それでもっと悲惨になったらどうしてくれるんだ」 「その場合は、責任とって私が毎朝整えてあげるわよ」 臆面もなく言い切る恋人に、シンはわずかに頬を赤くして顔を逸らした。 恋人となってもう何年になると思うのだ、いまだに彼はこうしたことを恥ずかしがる。 かと思えば、いきなり廊下で髪に触れてきたりと。素でこちらをドキリとさせることもあるのだ。 全く心臓に悪い恋人だ、とルナマリアは思っていたりする。 「明日は式典なんだし、もう少し身なり整えておきなさいよ」 「……俺たちは警備が主なんだから、別にどうでもいいだろ」 「よくなーい！式典の後の晩餐会に招待されてるの、忘れたの？」 「あ」 「…忘れてたんだ」 「いやだって、俺そういうの興味な…」 「私はあーるーの。ばっちりドレス着てくんだから、ちゃんとエスコートしてよ？」 「………難しいこと言うなよ」 ぐったりと肩を落としながら、更衣室へ向かって歩き出す。 なぜかルナマリアはそれについてきて、いかに明日の晩餐会を楽しみにしているかを語りだした。こういうことを話し始めると、女というものは長い。普段はお洒落などにあまり関心を示さないルナマリアだが、全く女性らしくないかというとそうでもなく。意外とミーハーなところもあるのだ。 そういえば、とシンは晩餐会に招かれているメンバーを思い返す。 そもそもの招待主はラクス・クラインであり、各国の交友を深めようという趣旨のものだ。 ということはつまりキラは確実に参加するだろう。ラクスの恋人であり、彼女の剣と盾でもある。 今回の式典にはオーブ代表のカガリも招かれているし、必然的にアスランも出席しそうだ。 あとはイザーク・ジュールなど大戦での功労者も招かれているはず。 そこに自分も呼ばれているわけだが。 はっきりいって、ものすごく断りたい。面倒臭そうだし、緊張する。 「ってシン、晩餐会に着てけるものあるの？」 「あぁ…クリーニングしたままのが一応」 「なら安心か。心配だから、今日はシンの家に泊まってこうかなー」 「別にいいけど…夕飯はどうすんだよ」 「それはシンの担当で」 「…やっぱり」 「だって私が作るよりシンが作った方がおいしんだもん」 「ルナは大味すぎるんだよ。俺だって別に上手くはない…ってか、ルナのもまずくはないだろ」 「メイリンにはおいしくない、って言われたけど」 そりゃメイリンレベルからしたら、そうかもしれないが。 「俺はルナの料理、あれはあれで好きだけど」 「………私に作らせるために言ってない？」 「違うって」 疑うように見上げてくるルナマリアに手を振る。 やはり自分で作ったものというのは、おいしいとかまずいとかではなくて。 そりゃ自分好みのメニューを作りたいなら、自分で作ってしまうのが一番なのだけど。 誰かに作ってもらった食事というのは、シンにとっては特別だった。 母の味を口にできなくなって、家族みんなで食べる食事もとれなくなって。 ひとりで食べることの味気なさを知った、少年の頃。 自分のために作られた料理の特別な温かさを、いまはとても大切に感じる。 「ルナが俺のために作ってくれる、っていうのが大事なんだよ」 「………………」 「ルナ？」 「………シン」 「な、何」 「キラさんの影響受けてんじゃないの？」 「はあ！？」 「まさかそんな台詞をシンから聞くことになるとは思わなかったわー」 「なっ、あんな恥ずかしい台詞を堂々と言える人間じゃないぞ俺は！」 「どうだか。いまのはかなりだったわよ」 ほらさっさと着替えなさいよ、と辿り着いた更衣室に押し込まれる。 非常に納得がいかない、と憮然としドアが閉まる音を聞きながらシャワールームに向かった。 汗を流して着替えを済まし、更衣室から出る。 すると壁に寄りかかっていたルナマリアがおそーいと笑った。 こちらに並んだ彼女は、ふと手を伸ばして前髪に触れてくる。タオルで拭いただけだから、微妙に湿っている。それがきっと気になったのだろう。乾かす時間ぐらい待ってたのに、と言われて遅いって言ったのはどの口だよと頬をつねってやった。 痛い痛いとこちらの腕をつかんで、そのまま絡める。 まだ職場だから恥ずかしいのだが、ここで嫌がれば拗ねられそうだ。 「ルナがうちに来るなら食材買って帰らないと」 「そのまま外食でも私はいいけど」 「…明日のこと考えたら、カロリーは抑えた方がいいんじゃないのか」 「ちょっとどういう意味！？」 「別に」 駐車場に停めてある車に乗り込み、滑り出す。 家へと帰る途中にあるショッピングモールにでも寄るか、とシンはハンドルを握った。 そのまま明日に備えて、お洒落道具を買わされそうな気がしないでもないが。 「何か食べたいもんとか、ある」 「うーん…カレー？」 「何でカレー」 「なんとなく」 まあ作るのが楽だから構わないが、と必要な食材を思い浮かべる。 野菜切るのぐらい手伝えよ、と呟けば助手席でルナマリアはえーと不満そうな声を漏らした。 皿洗いもやらせるぞ、と心の中で唸りながら交差点を右折する。 二人でやった方が早いし、料理の仕上がりもまた違ったものになるだろうに。 なんかシン、主夫向いてそうだよな。そうヨウランたちに言われたことを思い出す。 それは褒め言葉ではないだろう、と沈んだのは最近のことだ。 自覚があるだけに色々と情けない気分になって、そのことをたまたま会ったキラに愚痴った。 しかし彼は普通の感性ではないのか、好きなひとのために出来ることが多いって良いよねと。 僕ももうちょっと頑張ろうかなぁ、とのんびり呟いていた。 ああそうですか、とシンは愚痴る相手を間違ったと認識したものである。 「ほら、ついたぞルナ。さっさと食材買って…」 「あー！シン、あのケーキおいしそうじゃない？」 「っておい、いきなり目移りするな！」 「いいじゃない、デザートよデザート」 「………野菜カレーにするぞ」 「ええ〜」 すぐに別の商品棚に目がいきそうな恋人の手を引いて、店の中をずんずん歩き出す。 こんな日常に、疲れたりすることもあるけれど。 でもこの当たり前の毎日が、本当はとても儚いものだともう知っているから。 こうしてゆっくりと積み重ねていく時間を、大切にしていきたい。 愛するひとと、一緒に。 「ごちそーさまでした！」 「明日は朝早いから、寝坊しないようにしないと」 「あー…そこは私もちょっと自信ないわ」 「目覚ましセットしとくか。ルナ、先に消すなよ」 「しないわよ」 「嘘つけ。前も勝手に目覚まし切った挙句、そのままルナが二度寝して寝坊しただろ」 「あれはだって！シンが起きないから私も一緒にまた寝ちゃったんじゃない」 「………」 「………」 「………とりあえず、俺たち二人とも起きるまで止めないってことで」 「…分かった」 NEXT⇒◆ |