+五周年記念・アンケート企画「星は謳う」+
EX1.クルーゼ隊編 待ち合わせに指定された場所へとアスランは向かっていた。 こうしてぶらぶらとプラントを歩くのは久しぶりのような気がする。大抵は仕事絡みで来ることばかりだったから、いつも気を張り詰めていたし。カガリと共に早足で移動しているのが大半だ。 けれどいまはひとり、いつもよりややのんびりと足を進めている。どれぐらいぶりだろう。 「やっぱりアスランが一番か」 「…久しぶりだな、ディアッカ。イザークも」 待ち合わせ場所には顔馴染みの戦友が立っており、ディアッカが片手をあげた。 イザークは不機嫌な表情で鼻を鳴らすのみだが、彼はいつもこうだから気にしないでおこう。 「俺は何がなんだかいまいち分かっていないんだが…、今日はどういった目的で集まったんだ?」 「なんだ代表から聞いてねえの?」 「何も。たまには羽伸ばしてこい、と言われただけで」 「伸ばせるかは微妙なとこだよな。この面子で」 「………そもそも俺とディアッカは仕事の途中で、羽を伸ばしている暇などない」 「確かイザーク達は式典の警備だったか?」 「そ。あとイザークは晩餐会も招待されてるよな。…そういやお前、同伴者決まったのか?」 「会場で何かあったら事だからな、シホに任せたが」 「おお、イザークにしちゃやるじゃん」 「は?」 なぜか褒められイザークは怪訝な面持ちだ。 シホというのは確か、自分やディアッカが抜けた後にクルーゼ隊に補充された隊員の少女。 いまではジュール隊の主力であり、イザークが信頼を置くトップガンなのだという。 真面目な表情を思い出すことができるが、ディアッカの口ぶりだとイザークと良い雰囲気なのだろうか。 そんなことをなんとはなしに考えていると、おーいと声が聞こえてきた。 三人揃って顔を上げると、オレンジの髪と碧色の髪、そして金髪がこちらに来るのが見える。 「おっひさー、元気そうじゃんお前ら」 「イザークもアスランも、相変わらず難しい顔してますね」 「その若さで眉間の皺が固定するのはやめとけよ」 「…お前たちも相変わらずだな」 そう簡単に変わるもんでもないっしょ、とラスティが肩をすくめた。 もうちょっと落ち着いてくれてもいいんだけどな、とミゲルが腕を組んで溜め息ひとつ。 落ち着きがないのはイザークとラスティじゃないですか?とニコルが可愛らしく微笑んだ。 こうしてクルーゼ隊の面々が一堂に会するのは本当に久しぶり。 途端に賑やかになって、アスランは小さく笑みをにじませた。 「…なぜわざわざ俺がお前たちの相手をしてやらねばならん」 「まーまー、ラクス様の計らいだろ?俺らが集まれる機会ってそうそうないし」 「アスランはどのぐらい回れるんですか?」 「…せいぜい一時間か二時間だな」 「代表の護衛は忙しいよなぁ」 「んじゃどこ行く?さっさと決めようぜ」 「……だいたい、このメンバーで出かけるような場所ってあるか?」 男が集まって遊ぶのも妙だ、というかそもそもそんな年齢でもない。 結局は手頃なレストランに入って食事、という味気ない結果となってしまった。 それぞれに注文をし、料理がくるまでの間を会話でつぶす。 ラスティがテーブルに頬杖をつき、興味津々といった様子でなあと声をかけてきた。 明るい彼の声に顔を上げたアスランとイザークに、ラスティはにやりと笑う。 「それで?お前ら最近どうよ」 「…どうっていうのは?」 「鈍いなぁ。アスランは代表と、イザークは後輩ちゃんとどうかって話だよ」 「ラスティ…お前って勇者だよな。地雷かもしれないってのに」 「ラスティが踏んだ地雷の被害に遭うのは、大抵ディアッカかミゲルですけどね」 「「おい」」 「あ、ディアッカには恋愛ごと聞かないぜ?昨日、お楽しみだったみたいだし」 「へいへい」 どうと言われても、と戸惑うアスランとくだらんと眉を寄せるイザーク。二人らしい反応だ。 お互いに認めたくはないだろうが、アスランとイザークはよく似ていると思う。 真面目で、向上心が強く、勝負事に燃える性質。あとはそれを表に出すか出さないかの違いだ。 「…俺もカガリも、いまは出来ることに集中しようと思ってる」 「うっわー、アスランらしいけどさぁ」 「うまくまとまるのは、ずっと先になりそうですね」 「いいんじゃないのか、まだまだ若いわけだし」 「ミゲルが言うと説得力あるよな」 「おいラスティ。言っておくが、俺とお前らはそう歳変わらないからな」 こういうときばっかり年上扱いするな、とミゲルに頭をはたかれラスティは笑う。 彼らとこんな風に穏やかな気持ちで過ごせるいまは、やはり平和へと近づいているのだろう。 戦争というものが、自分たちを引き合わせた。 誰もがそれぞれの想いを抱いて、戦場へと出るために集まった。 そのうちのひとつが、自分たちの所属したクルーゼ隊。 あの頃は、随分と殺伐とした空気が流れていて。喧嘩や衝突は絶えなかった。 苛立ちをぶつけ合い、ときには憎しみに近い感情を覚えたこともあったかもしれない。 けれどいまは、こうしたじゃれ合いを楽しんでいる自分たちがいる。 「んで?イザークはどうなんだよ」 「どうも何もないだろう。シホは俺の部下で、それ以上でもそれ以下でもない」 「………イザーク、それシホの前でだけは言ってやるなよ」 「は?」 「鈍感な男に惚れると大変だよなぁ」 「それが救いになる場合もありますけどね」 「おい、何の話だ」 「イザークはそのまんまでいいって話」 「そういやディアッカは晩餐会出ねえの?」 「あぁ、招待されてんのはイザークだしな。俺は取材班の手伝い」 「取材〜?」 「あぁ、彼女の手伝いか」 「うわ、献身的」 「うるせ」 お待たせいたしました、と店員が食事を運んできた。 それぞれに置かれた食事を楽しみながら、今回の式典に話題は移る。 まだまだ道は長いけれど、ようやくたどり着いたひとつの区切り。 「そういやラクス様って歌わねぇの?」 「どうだろうな…。最近では歌の方は休止しているようだが」 「それが残念だよな。政治とは別に歌の方も続けりゃいいのに」 「愚か者。為政者がそんな中途半端な状態で務まるか」 「でもこういう特別な日ぐらい、歌姫の声を聴きたいですよね」 「まーなぁ。…あ、ニコルの伴奏で歌とかいいんじゃないか?」 「それは恐れ多いです」 「謙遜すんなよ」 歌姫としてプラント中の人間から愛された、ラクス・クライン。 人々の心を癒し温かく包み込むその歌声は、いまも愛され続けている。 そういえば今度ベストアルバムが出ると聞いたような気がするが、新曲は追加されるのだろうか。 コーディネイターのためだけでなく、全ての人々、世界のために。 誰もが穏やかな日々を過ごすことができるよう、彼女は進み続けている。 ただたおやかに微笑み、花に囲まれて過ごしていたラクスの姿は、遠い。 いまでは毅然とした表情を浮かべ、凛とした姿を見せるのが当たり前になっているけれど。 本当は小さな幸せしか望んでいないことを、アスランも知っていた。 それほど短くもない婚約期間、彼女が語る夢はありふれた女の子らしいものばかりだったから。 大切なひとのために、料理をして歌を歌って。 笑って過ごせればそれが幸せなのだと、鈴を転がすような声を響かせていた。 きっといま、その幸せを彼女に与えているのはキラなのだろう。 キラもラクスも忙しく、互いにのんびり過ごす時間はあまりないようだけれど。 ラクスは、キラのためになら歌う。キラのために、幸せそうに料理を作る。 それが、彼女の幸せなのだ。 「そういやアスラン」 「…ん?」 「今日の晩餐会、ダンスもあるんだろ?大丈夫か?」 「どういう意味だ。特に問題はないと思うが」 「だって相手はあの代表だろ?けっこう大変そうじゃん」 「いや、カガリだって公式の場で暴れたりはしないだろう」 「イザークも踊るんだよな、うわ超見たい」 「ふざけるな」 カガリのドレス姿を見るのはどれぐらいぶりだろう、と思う。 それよりも何よりも、カガリにドレスを着させることの方が大変そうだ。 オーブで開かれる宴のほとんどを、彼女はあの代表服で済ませてしまっている。 ドレスは気を遣って疲れる、とぼやいていたしその気持ちは分からないでもないのだが。 今日ばかりはそうも言っていられないだろう。各国の首脳陣が集まるわけだし。 そういえば、カガリにとっての幸せとはなんだろう。 オーブ国民が幸せになることだ、と豪語しそうではあるが。 きちんと聞いたことはなかったかもしれない、と水に口をつける。今度聞いてみよう。 「にしても、それぞれ違う道を選んだけど、こうして集まれるってのはいいよな」 「…なんだラスティ改まって」 「いやいや、お前らのこと心配だったからさ」 「は?」 「なあ、ニコル」 「そうですね。アスランもイザークも素直じゃないですから…ディアッカも昔はひねてましたし」 「まあ、否定しないけどな」 「このまんまでお前ら大丈夫かよ、って俺も先輩ながら心配してたもんだぜ」 「あっはっは、問題児はアスランとイザークってことだよな。おまけでディアッカ」 「俺はおまけか」 「…問題児はお前たちだろうラスティ。いつもいつも騒ぎを起こしていたこと忘れんぞ!」 「ええ?むしろお前とアスランの戦いの方が騒音だったっての」 「なんだと!?」 いきり立つイザークに、けらけらと笑うラスティ。 まあまあ、と宥めるディアッカとミゲルをニコルが楽しげに見守っている。 これはこれでひとつの幸せなのかもしれない、とアスランは翡翠の瞳を細めた。 NEXT⇒◆ |