+++ 萌 芽 +++
番外編W.Fly 青い空の下、今日は朝早くから皆で外に出ていた。 「それでは、みなさん。お別れはすみましたか?」 「うん」 「寂しいよぉ」 「泣くなよー、こっちまで悲しくなるだろぉ」 「平気だもん!」 ラクスを取り囲む子供たちは、いつものように賑やかなように見えるが、みな表情はどこか暗かった。それを遠巻きに見ながら、キラはそっと視線をラクスの手元に向ける。 そこにはすっかり元気になった小鳥が鳥篭の中でさえずっている。 子供たちが発見した傷ついた小さな命は、いまでは見事なまでに回復し羽ばたけるようになったのだ。そして今日は、その小鳥を自然へと還す日なのである。 けして短くはない期間を共に過ごし、子供たちにとっては家族のような存在になっていた。だから、元気になったことは嬉しくても素直に喜べないのだろう。 「もう怪我するなよー」 「そうそう」 「でもご飯は食べにきてもいいからな!」 「顔見せにきてねー」 籠を覗き込んで、子供たちが口々に別れの言葉を述べる。 その姿を優しい笑顔で眺めていたラクスは、それではそろそろ開けましょうかと告げた。 真剣な表情で子供たちが頷いたのを見届けて、鳥篭を開ける。 最初はおずおずといった様子で出てきた小鳥は、二度三度と辺りを見回すとちょんと外へ出てきた。 それを皆で静かに見守る。 ぶわっと潮風が吹き抜けた瞬間、小鳥はその風にのって空へ舞い上がっていた。 「わあっ……!」 「とんだ!ちゃんととべたよ!」 「よかったね!」 「元気でなー!」 「またねー!」 「あたしたちのこと、忘れないでよー!」 一生懸命に空へ羽ばたいていく小鳥に、声を振り絞る。 その小さな姿が見えなくなっても、子供たちは手を振り続けていた。 海が見える定位置に座りながら、キラは夕日が沈む水平線を眺めていた。 ぼんやりと、赤から紫へと変わっていく空を見つめていると、子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。 「キラ、そろそろ食事よ」 「うん」 カリダの呼びかけに頷いて、ゆっくりと腰を上げる。 もう一度空を見上げていると、エプロンをしたラクスが隣にやって来た。 「今日はご馳走ですわ、キラ」 「そうなの?」 「はい。旅立ちの記念ということで」 「そっか」 小鳥が飛び立ってしまった直後は、泣きじゃくる子供が続出で大変だったけれど。あの賑やかな声を聞いているかぎり、いまは無事に命を守れたことの喜びを噛み締めているに違いない。 子供たちが成し遂げたことの素晴らしさに、キラは褒めてやりたいと思う。 そして何より。 「命ってすごいよね」 「?」 「飛べるようになるのは、無理なんじゃないかって思ってたから」 「そうですわね。とても深い傷でしたから」 「でも、また羽ばたけるようになった」 「はい」 命はなんて力強いのか。そしてあの舞い上がる姿は、とても美しいものだった。 傷ついたとしても、また空へ還ることができる。 それは子供たちの一生懸命な助けがあってこそだけれど。 「僕もいつか……」 「え?」 「なんでもない。いこっか、子供たちが待ちくたびれちゃう」 「くすくす」 自分にもたくさんのひとが助けを差し伸べてくれている。 だからきっと、また歩み出せる日が来ると思えるのだ。 家へ入ればたくさんの無邪気な笑顔が迎えてくれる。 ほら、自分の周りはこんなにも温かい。 「それではみなさん」 「「「いただきまーす!」」」 だから傷が癒えたときは、あの大空へ飛び立とう。 あの小鳥のように、翼を広げて。 NEXT⇒◆ |