+++ 憩いのとき +++

      EX EX+α




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「本当にあるんだ温泉…」

ぽかーん、と呟くミリアリアにキラは苦笑する。
アスランとの久しぶりの再会は、思い描いていたようなものにはならず。
決裂してしまったかのようになってしまった。

 そして、本当に議長は信頼に足る人物なのか、プラントの情勢を調べにラクスが動き出した。

それと入れ替わるように、先の大戦ではCICを担当していたミリアリアが来てくれた。

沈んでいた気持ちも、彼女がやって来たことで軽くなっている。
ミリアリアはキラの友人トールの恋人だった。それを差し引いても、カレッジでは仲の良い存在だったのだ。先の大戦からの心強い仲間でもある。

「すっごい楽しみ!」
「とても気持ち良いのよ」

マリューが大人っぽい笑みを浮かべた。
その言葉にミリアリアはますます瞳を輝かせる。

「それよりも、まずは仕事だぞ?」

チャンドラ三世がからかうように口を挟む。

「えぇー」

艦橋にみんなの笑い声が響く。
そんな空間に、キラはふっと目を細めた。




フリーダムで戦闘に出たときは免除されるのだが、潜行している間はやはり自分が風呂掃除をしている。男性陣が気を利かせてくれたおかげで、最近は女湯専属になっているが。

………………それでいいのか、自分。

今日もいつもの時間にゴシゴシとタイルをこすっていると、脱衣所に誰かが入ってきた気配がしてキラはブラシを動かす手を止めた。
入ってきた人物も、浴場に誰かいると気付いたらしい。
ドアを開けて顔を出してくる。

「キラ?何してるの」
「ミリアリア……」

不思議そうな顔に、なんといったものかと悩む。

「………掃除?」
「う、うん。まあ」
「なんで女湯の掃除をキラがしてるの?」

色々あったんだよ………色々ね。

「もしかして、これから入る?」
「あ、うん」
「じゃあ僕は後で掃除するよ」

笑みを浮かべて脱衣所に入ると、待ってとミリアリアが声をかけてきた。
なんだろうと振り返ると、小さく笑う友人の姿。

「キラはもう休んで」
「え、でも」
「いいから。掃除は私がやっておくから」

ミリアリアの言葉はとてもありがたいが、本当にいいのだろうか。

「キラも、大変だったでしょう?だから、ね」
「ミリアリア………」

アスランとの事を言ってくれているのだろう。
さりげない昔からの仲間の気遣いに、キラは心から感謝して微笑んだ。

「それにしても」
「うん?」

「キラって掃除してる姿、すごい似合ってるわね」

………………………………うん?

「ぴったり」

………………それは褒め言葉として、受け取るべきなのだろうか。

確かにズボンを膝のあたりまでまくりあげ、半袖姿でブラシを持っている姿は掃除小僧そのものなのだろうが。

「じゃ、じゃあ僕は休むね」
「うん。お疲れー」

心なしか背中に悲愴感を漂わせ、キラは出て行った。




絶対にアスランが戻ってきたら、掃除をやらせてやる。

キラの決意は固い。

カガリを悲しませてくれたぶんも、お返ししないとだしね。



そんなことを思えるのは、きっといつか理解し合えると信じているから。

いまは道を違えてしまったのだとしても、望む未来は同じなのだろうから。


















































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これじゃ風呂掃除なんてさせられないじゃない。

ベッドに青白い顔で横たわる親友に、キラは心の中で毒づく。

そんな事を思えるのは、やっと先ほどアスランが目を覚まし、言葉を交わすことができたからだ。

「本当に……良かった」
「うん」

カガリの目からはぼろぼろと涙が零れている。
相変わらず、感情の起伏が激しい片割れにキラは苦笑した。

「まさか、こんな姿で帰ってくるとは思わなかったね」
「あぁ」

アスランたちがアークエンジェルに搬送されてきたとき、息が止まるかと思った。
普段から白い肌はより白く。
身体に巻かれた包帯が痛々しい。

「いったい何があったんだろうな」
「分からない………でも、やっぱり何かがあるのかもしれない。議長には」

こうまでしてアスランが出てこなければならなかったのだ。それなりの理由があるのだろう。

ラクスは大丈夫だろうか。

ふとキラは不安にかられたのだった。







 キラの懸念は的中した。宇宙でエターナルが狙われている、と通信が入ったのだ。
 なんとか助けに行きたいが、ここを放り出していくわけにもいかない。
 迷うキラの背中を押したのは、アスランの言葉だった。

 そしてキラが宇宙へ上がってから、今度はオーブとザフトの戦端が開かれた。
 カガリもついに代表として動き出し、アークエンジェルも戦闘に参加する。
 それらをもどかしい思いでアスランは見守る。

 俺はここで何をやっているんだろう。

 カガリを守りたい。

 カガリが守ろうとしている、オーブを守りたい。

 だがいま、自分はなんの力も持っていない。


 そのときだ。カガリの搭乗するアカツキが、デステニーにやられそうになり背筋が凍った瞬間。

「フリーダム!?」

 モニターに映し出されたのは、青い翼を輝かせた機体。

『マリューさん、ラクスを頼みます!』

 キラから通信が入り、アスランははっと顔を上げる。
 ラクスがいま乗っているのは、おそらくジャスティスだ。

 
 行かなければっ………!



 そして新たな剣を手にし、アスランもまた立ち上がった。

 自分と同じ思いを持つ友と愛するひとのために。

 そして願うものは同じはずの、あの燃える瞳をもつ少年のために。



「アスラン!」

 遠くでキラの声がする。

 俺はどうしたのだったか?

 そう、とりあえず戦闘は終了したのだ。
 シンを説得することはできなかったけれど。カガリとオーブを守ることはできた。

 そのことに安堵したせいか、アスランの意識は急速に遠のいていった。





「というわけで、温泉があるんだよ」

カガリの演説も終わり、ラクスもついに表舞台に姿を現した。
自分たちにできること。それが一段落して、意識を取り戻したアスランはキラたちと、ゆっくり話していた。

「温泉があるんですかっ!?」

さすが女の子、というべきだろうか。

メイリンは嬉々として会話に加わってくる。

「はあ……何を考えてるんだよ」
「あはは、僕も最初は唖然としたよ」

予想通り、アスランは呆れたような溜め息を吐いた。

「ですが本当に気持ち良いんですのよ。岩風呂に似せてありまして」
「すごいすごい、素敵ですね」

すっかりラクスとメイリンは意気投合している。

「せっかくですから、一緒にいかがですか?」
「え、いいんですか?」
「一人よりも二人の方が楽しいでしょう?」

憧れの歌姫に誘われ、メイリンは頬を赤くして頷いた。

きっと彼女の中では最高の思い出になるのだろう。

「いってらっしゃい」
「いってまいりますわ。キラも、少し休んでくださいませね」
「うん」

ラクスたちが医務室から出て行き、キラはアスランに身体を戻した。

「アスランも、早く怪我治して入れるといいね」
「俺は別にどっちでも」
「良い気分転換になるよ」

アスランは色々と考え込む癖があるから。そう指摘すると、ぶすっとしてアスランは視線を逸らした。図星なのだろう。

「でも残念だったね」
「何がだ?」
「もう少し早く来てればさ、カガリと一緒に入れたかもしれないのに」
「なっ!!」

途端に顔が赤くなるアスランに、キラはひそかに笑う。

「そ、そんな事するわけないだろ!」
「まあアスランだもんね」

あっさりと納得すれば、それはそれで複雑なのかアスランが押し黙る。

「安心して、混浴ではないから」
「あ、あぁ」
「一緒に入るっていっても、壁越しだからさ」

にこにこと微笑みながら説明すると、ちらりとアスランがこちらを見てきた。

「何?」
「………………入ったのか」
「温泉?」
「ラクスと」

気になるんだ。
キラはくすりと笑みを零し、教える。

「うん、一度だけね」
「………………」
「良いよ、裸の付き合いっていうのも」
「それは同性に言うものじゃないのか?」

友情を培うときに使う言葉ではなかったか?

「とにかく、早く元気になってよね」
「?」

キラの言葉に首を傾げる。

「アスランが元気になってくれないと、こっちが困るからさ」
「は?」

なんで。
怪訝そうに眉をひそめると、キラがにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべた。

「風呂掃除、女湯僕がずっとやってるんだよね」
「はあ?」
「たまにミリアリアが代わってくれるけど」

ちょっと待て。
どうして男のキラが、女湯の掃除をしているんだ。

「だから、アスランも元気になって一緒に掃除してね」

そんな可愛らしく首を傾げるな。

「な、なんでそうなるんだ」
「僕だけに掃除させる気?」

う………………。

「俺は男湯の掃除で」
「そっちは人手が足りてるの」

どうも逃げられないらしい。
観念して、アスランはがっくりと肩を落とした。

早くもアークエンジェルに戻ってきたことを後悔する、アスランであった。




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